9話 やがて日は沈む
外でAegisの突入部隊が銀行への突入準備をしている頃。Aegisの隊員、岩波源次が隊長のところへと駆け寄ってきた。
「隊長、何故突入準備をしているのですか……!? まだ中には人質が……」
「……上層部からの命令だ。人質を無視して犯人を拘束せよだと」
「しかしそれは……ッ!」
岩波が反論しようと口を開くが、『いいから』と隊長のドスの効いた低い声を聞き、岩波は開いた口をつぐむ。
「あと三十秒後に突入開始だ」
隊長がほかの隊員に急かすように指示をしていると。
ドォォォオオオオオオオン!! という爆発音し岩波と隊長が振り向くと、停めてあったAegisの装甲車両の一つが炎を上げ、バラバラにひしゃげていた。
「なん……ッ!?」
ガガァンと足元から響く音に驚いて飛び退くとコンクリートに小さな銃痕が空いていた。
「狙撃ッ!? いったいどこから……!?」
すると岩波の周りを囲むようにガガガガンといくつもの銃弾が浴びせられた。
「全方位だと……!? 一体アイツらは何人狙撃手持ってやがんだ!?」
隊長が唸るように呟き上を見渡すが、もちろん何かが人影は何一つとして見えなかった。
☆☆☆☆☆☆☆
「くそッ、化けもんかこいつッ!!」
「どぉなってやがんだぁ!? 能力者っつっても女じゃねぇかぁ!」
大の男二人の短機関銃……だっけかな? から発射される銃弾の嵐を、文字通りかき回すかのように両手を振り回し蹂躙していく。
「ふっふ~ん♪ 私を弾幕で仕留めたいんだったらそんな短機関銃なんかじゃなくてガトリング砲でも持ってくるんだね!」
ゆうの能力は手足にしか対応させられないが、その持ち前の動体視力と反射神経と……あと一つは……まぁ置いといて。それと自身の能力使って自分を中心とした半径約0.5だか0.7M。その外側からの攻撃は絶対に受けないとか。
「そう、それが私の『絶対防御範囲』だよ!」
「ディフォで俺の心読まないでくれるかな!?」
「だいじょーぶ! お兄ちゃんと私は心が通じ合ってるんだよ!」
「全然大丈夫じゃないし! そもそもお前の考えてること全然見当つかないし!」
片方は銃弾の雨をかわしながら。片方は縄で縛られながらコントを続ける俺たちに、捕らわれている他のお客はポカンと口を開け。上を見上げるとミルザムもキョトンとした表情でゆうを見つめていた。
そして口に手を当てくすくすと笑い出した。
「面白いね。あなたとあなたの妹さん」
「毎日これやってみろ……疲れるなんてもんじゃないんだよ……」
なんて人質とテロリストが悠長に話していると、横からシリウスが銃を乱射しながらこっちまで下がってきた。
「おいミルザムぁ! そいつをこっちに寄こせぇっ!」
「え、ちょっなん……!」
そう言いながら俺の縛ってある縄を引っつかんで軽々と持ち上げてこう言った。
「ガキぃ! こいつがどぉなってもいいのかぁ!! それ以上動いたらコイツを……」
「オ兄チャンに触ッタネ?」
いつの間にかシリウスの目の前に移動していたゆうが床をダンッと踏み鳴らすと、俺の襟首をつかんでいたシリウスの右手がボキュッという嫌な音とともにありえない方向へ折れ曲がった。
「あがァァァあああああああ!!??」
ゆうは口だけを大きく広げて狂ったように笑いながら、もう一人の長身のほうへゆっくりと振り向いた。
「サァテ、アト一人ダネェ……」
「ひッ……!」
ゆうは素手。相手は武器を持っているのに、ゆうの圧倒的な実力を前に顔を青色に染めながら相手はじりじりと後ずさりしていった。
「ちょ、ちょっと待っ……!」
「ヤダ」
地面を大きく蹴ってひゅっとラウラの目の前に移動したゆうは、そのままラウラに回し蹴りを放って横に大きく吹っ飛ばし、壁にぶち当たったラウラは白目をむいてドチャっと地面に倒れこんだ。
「ふぅ……さぁて。あとはお兄ちゃんに色目使いやがったくそ野郎だけになったねー」
そう言いながら指をバキボキと鳴らしてこっちに近づいてくる。
あのーゆうさん。それ、俺も怖いんですが……?
「……雷電部隊第三支部、支部長『位格下げ』風見優子……。なるほど。ラウラやシリウスごときが敵う相手じゃなかったわね」
んなっ!? ゆうが支部長!?
驚いてゆうを見ると、腰に手を当てながら何をいまさらといった感じで。
「へー私って結構有名人なのかな? サインとか練習しとかないとなー」
「裏の世界じゃあ知れた名だけど表側じゃどうだろうね。現に貴女のお兄ちゃんは目ぱちくりしてるけど?」
「お兄ちゃん……? し、知らなかったの……?」
うん。知らなかった。
いや、数年前に『兄さん私は人の役に立ちたいんです!!』って言って雷電部隊に入ったのは知ってたけどさ。まさかそこまで上り詰めてるとは……。
「けど私はあの二人のようにはいかないわよ」
そう言うと背中のリュックサックから二丁の小さな銃を取り出した。
「Vz.61ね。二丁拳銃ならぬ二丁SMGってとこかな?」
「さて、あんなのでも同じ作戦を実行した仲間だ。仇は取らせてもらうわよ」
「やれるもんならやってみな、ガキぃ!」
「君に言われたくはないがなッ!」
超大な能力を持った少女と、強力な武器を持った二人の少女がぶつかり合う。
ゆうの能力の余波で床が砕け、ミルザムの銃の流れ弾がバラララッと撒き散らされる。
「ぐ……アイツら他のやつらのこと考えてんのか……!?」
銃弾と爆音が鳴り響く戦いを横で眺めながらそんな心配をしていたときに、ポケットのスマホがブルブルと震えた。
いや、縛られてるんだけど俺。
と思ったらガチャっと勝手に通話モードにって声が聞こえてきた。
「大丈夫だ。そう思って前にお前の携帯をこっちでコントロールできる機能を勝手に入れてある」
「恭介ェ!! お前は俺のスマホになにしてくれてんだ!?」
「勝手? ウイルスにやられてデータが破損したから復元してくれと頼んできたのはお前だろう」
「あの時!? あの時のありがとうを返せこの野郎」
「ちなみにデータを壊したウイルス作って送ったのも俺だ」
「全部お前じゃねぇか!!!」
「悪いな、銃声と爆音でなにも聞こえないがとりあえず俺に修理を頼んだのはお前だと言っておこう」
「ぜってえ聞こえてるよな!? この状況でふざけてんのかお前!!」
「この状況とはどういう状況だ?」
「はぁ……お前のことだ。どうせ全部知ってるんだろ?」
「ははっ、何を当たり前のことを。あと十数分で龍騎と姉御が到着する。それまで持ちこたえられるか?」
「あぁ。もうゆうが二人のしちまったしあと一人だけから増援も要らねーと思うぜ『ところがそうもいかん』は?」
「外では何故かAegisの連中が動いてるが今アイツらは動けないでいる。なぜだかわかるか」
「は、はぁ!? わかるわけねーだろ!?」
「狙撃手だ」
「スナイパー? それぐらいにAegisがてこずるのか? それにこれが終わったらゆうだっているんだし……」
「問題はもうひとつある。敵の増援部隊がそっちに向かっているそうだ」
「なッ!?」
そういえばさっきの通信で外の連中がどうとか……くそっ……そういうことだったのかっ。
「お前は人質を連れて裏口から逃げろ。ルートは俺が指定するから携帯は繋ぎっぱなしにしておけ」
「ゆうのやつはどうするんだ!?」
「風見妹には狙撃手の排除が終わったら連絡するから戦闘が終わったら待機していろと伝えてくれ。そうすれば増援を食い止めることができる」
「肝心のスナイパーはどうするんだ!?」
「安心しろ。姉御と龍騎に任せてある」
さすが恭介……抜かりねぇな……。相変わらず高スペックな悪友に半分感心半分恐怖しつつ話に集中する。
「わかったゆうにも伝えておく」
「あぁ、あと自分のおかれてる状況を思い出してからだったら頼もしいセリフだったな」
「あ、縄……」
するといきなりバシュッというなにかが切れる音と共に縛られていた縄がはらりと落ちた。自分の背中側を見ると、ゆうの投げたであろうパンダのシールがついたカッターがタイルの床に突き刺さっていた。
ゆうのほうを見るとゆうもこっちを見てパチっ♪とウインクしてきた。
うちの妹がこんなにカッコいいわけがないっ!?
「じゃない、みんなを避難させないと」
俺は縄をほどいて流れ弾に当たらないよう祈りながら人質がまとまってるところへ駆け出した。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「ほらほら~もうバテちゃったのー?」
「うるっ……さい……っ!」
バラララララッとばらまかれる銃弾をよけ、観葉植物やATMを破壊しながら追ってくる銃弾をくるくるとかわしながら手足で弾いていく。
「ちょこまかちょこまかと――――……ッ!」
「当たらないよ」
息をきらせながら乱射する銃弾を避け、弾き、叩き落としていく。
弾が切れたのか床を蹴ってそのまま殴りつけてきたVz.61を払いのけ、腹にガチリと押し当てられたもう一丁を足払いをして体重を崩させ、そのままもう一回転して回し蹴りで弾き飛ばした。
「諦めなよ。私とあなたたちはそもそも力の質が違う。仮にも支部長やってる私と戦闘系でもないただの読心能力の貴女じゃあ戦いにすらならないことはわかるでしょ?」
「……それでも…………」
武器を失いボロボロになった目の前の少女は息を切らせながら立ち上がった。
……多分、一緒なんだな。と私は心の中で思った。
「それでも……守らなきゃいけないものがあるんだァ――――ッ!!」
腰のポーチから折り畳み式のナイフを取り出して走ってきた彼女を見ながら。
『わかるよ』
小声でそう呟いた私はナイフをかわしてそのまま彼女のお腹にドンッと拳を突き刺した。
「が……はッ――――」
息を吐きながら倒れ込んできた身体をそっと抱える。
「そんなの――私だって一緒なんだから……」
☆☆☆☆☆☆☆
「ははっ、最後に一仕事したなァミルザムさんよぉ。そいつを窓ガラスの方に連れてきてくれてな」
男はタバコを吹きながら、対物狙撃銃(SV-98)に取り付けられた照準器を覗きながら不適に呟いた。
「あいにくAegis対策に持ってきたSV-98しかないもんでねぇ。悪いね嬢ちゃんちょっと痛いかもしんねぇなぁ……っと」
言いながらなんのためらいもなく照準をゆうの頭に合わせ、風向等を計算しながら少しずつずらしていく。
「じゃあな。支部長どの」
トリガーを引こうと指をかけた――――――――――――――――――瞬間。
銃身の前に影が飛び出し、同時にトリガーに掛けていた左手ごと銃が何かに潰されたかのようにぐしゃりと潰れた
「ぐ、ぐぎゃァァァああああああああああ!!!??」
「成す統べも泣く」
ビル八階の屋上の淵におり立った赤いポニーテールの少女は、まっ平らになっている銃の横で潰れた左手を押さえながらうずくまる男を少し見下ろして、ポケットから雷電部隊から支給されている専用携帯を取り出した。
「A班B班C班。こっちは狙撃手を一人見つけた。そっちはどうだ?」
「ダメです姉御!! どこにもいません!!」
「こっちもいませんですぜ! C班のほうも見つけられないと!」
「チッ、宮本ぉ!! お前の方はどうだ!?」
「ダメだ! こっちもいない!!」
「くそッ! あれだけの狙撃を浴びせられる量のスナイパーが一体どこにいやがるってんだ……!?」
苺が西日のせいか焦りのせいか汗をたらしながら考えていると、足元から『クックックック……』と笑い声のような呻き声のような声が聞こえてきた。
「……何が可笑しい」
「いやァ……いもしねぇ狙撃手を探してるのは滑稽だなと思ってなァ……」
「!? どういうことだ!?」
「こういう――ことさァッ!!」
その瞬間苺の目の前の空間に現れた1.2センチぐらいの真っ黒の円から銃弾が一発発射されてきた。
「ッ!? 成す統べも泣くッ!!」
圧倒的な重力の壁に阻まれた銃弾は下のコンクリートにめり込んでグニャリと潰れた。
「やっぱ正確さには欠けるなァあのままじゃ耳を吹っ飛ばす程度で終わってた」
男はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべながら左手を支えて立ち上がった。
「今の穴……次元保存か!?」
「ご名答。いわゆる四次元ポケットだな。俺はそこに射出した弾をいくつも保存してあるんだよ」
「っ……だけどこの壁がある限り私は倒せないよ。それでもこのまま続けるか?」
「だァれがお前を倒すなんて言ったァ!? 俺の目標は変わってねぇよ!!」
「……ッ!? しまったっ!!」
苺が下をのぞくと瓦礫を片付けているゆうの方向を向いているいくつもの黒い穴があった。
「もう遅ぇよ!! シネェ!!!」
☆☆☆☆☆☆☆
「そっちはもう大丈夫そうだな」
「あぁ、なんとか全員無事だな」
裏口から他のお客さんを逃がしているところにポケットから声が聞こえてそのまま片手で持ちながら裏路地を走っていた。
「ちゃんと風見妹には伝えてくれたか?」
「ん? ああ、なんか全部聞こえてたみたいだからそのまま任せてきた」
「そうか……なんか嫌な予感がするが……」
「まぁあいつなら大丈夫だろ……」
……あ、思い出した。
「何をだ?」
「ゆうがさっきいってた強さの秘訣。動体視力と反射神経と……」
☆☆☆☆☆☆☆☆
「……は?」
苺は下を見てポカンと口を開けていた。
「な、なななななんであいつは10発の銃弾を全部受け止めてやがんだァ!!??」
下のゆうは上にいる苺と狙撃の犯人に気づいたのかニヤッと笑いながら。
「「乙女の勘(よっ!)(だってさ)」」
次回は短めを予定しております。さっさとかけるといいなぁ……(--;