4話 まだまだ夏は始まったばかり
。
「やっるこっとなーいな、ひっまっだなー」
家の近くのビル街を特に用事もなくてくてくと歩く。いわゆる普通のお散歩だ。いつもと同じでお日様かんかん照りだが今日は不思議とそこまで暑くない。
原因作りこと恭介のやつも、厨二病も、妹も今日はいないし、これはいいことあるかもなー。
とか思いつつ歩いていると、
「緋色くぅーん?」
と何やら後ろの方で甘ったるいような声がした。すごく甘ったるくて可愛い声なのだが悪寒しか感じない。
気のせい。もしくは空耳というやつだな、うん!
と勝手に理由をつけて走って逃げようとするのだが、なぜか一歩も進めない。否。足が上げられない
「緋色くぅん?」
「すみませんでしたぁ!!」
くるっと後ろを振り向きながら土下座を繰り出す俺。技名回転土下座。うむ、我ながらかっこいい。
「かっこよくない。死ね」
「心の中を読まないでください」
「そんなんできるかよ。あたいはただ地の文を読……『それは言っちゃダメですよ!』チッ……」
後ろを振り向くと、赤い髪を後ろでポニーテールにまとめているかわいいと言うより格好いいという表現の方が似合う感じの女の子が立っていた。
服装はかなり気崩されたガクランを着ておりいつの時代の番長と突っ込みたく鳴るような風貌だ。
「なんか用ですか“姉御”」
「なんか用かじゃねぇよ! 今日は会合の日だろうがッ!!」
この人は俺の学校の先輩で『大喜利苺』翔天と呼ばれるこの街で3本指に入るほどの大きな不良グループの番長で、そのかっこよさにやられた数多くの不良を舎弟にもつ、泣く子も黙る鬼番長なのだ。
ちなみに二つ名は『為す統べも泣く』
「だからなんですか。俺には関係ありません」
姉御――というか翔天に関わるとろくな事がないので。言いながらくるっと180度向きを変えて家に帰ろうとする。
と、後ろから
「へぇ……? 誰が関係無いって? “副団長”?」
という声が聞こえてきた。
「……はぁ」
そう、三本指に入る最強の不良グループの1つである天翔。その“副団長”が俺の肩書きである。そういうのから足を洗った俺にとっては不本意極まりないんだけども。
「……俺は入るなんて一度もいった覚えはありません」
あぁ……早く逃げたい。この人に関わると必ず厄介なことが起きるから……。
「ふぅーん……んじゃあ逃げてみれば。まさかあたいの能力忘れた訳じゃあるまいに?」
「ぐ……ッ! しまった……」
彼女の有する能力は『重力操作』名の通り重力を操る能力で。効果が及ぶのは自分の半径1m以内という短い範囲だがその絶対領域に入れてしまえば、文字通り相手は最大60kgの重力に押しつぶされ『為す術がなくなる』
「お前の力を手放すにはもったいなさ過ぎる。これから手を貸してもらうぞ『去りし緋々の記憶』」
「その名前で呼ばないでください」
「『終焉をもたらす者』の方がよかったか?」
「ぶっとばしますよ?」
「やれるもんならな」
無理だった。
そんなわけで俺はずるずると連れていかれた。案の定決定権はないんですね。わかります。




