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だらだら過ごしてるけど能力者ですから  作者: 長月シイタ
第二章 そして物語は動き出す
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19話 鬼が自分しか狙ってこない鬼ごっこはダルい

(ゆうの上なんてどうすんだ……!? ゆうが本気で俺と戦ったとしたら俺なんて虫けらも同然だっていうのに。更にその上って無理ゲーなんてもんじゃないぞ!?)


 表は相手にビビってることが悟られないように平静を装ってるが、内心は冷や汗だらだら冷や汗だらだら足ガクガクでどうしようか必死に考えていた。

 『せめて峯岸と連絡が取れれば……』と考えていると無音の教室に廊下の方からカツカツと足音が聞こえてきた。


「ちっこんな時に見回りか――『おらっしゃああああああっっ!』――チッ!」


 ヘッドホン野郎の気がそれた一瞬を逃さず開けっぱなしの窓に向かって走りだした。勿論相手もそれに気づかないほどバカではなくさっきの謎呪文を唱えようとするが、すんでのところで念動力でチョークを投げ飛ばした。


「小癪な……ッ!」


 窓から飛び降りた。


「時間を止めようが空中にいりゃどうもできんよなぁ!」


 地面がだんだんと近づいて来る感覚はやっぱり少し慣れないが、落ち着いて『この辺りから』と目星をつけて自分の体に念動力をかける。急停止とまではいかないが、徐々に落下速度を緩めて地面にすたっと着地し、上を見て追ってこないのを確認してから隠れ場所を探すために走りだす。



―――――――



『音無音也。音符をモチーフにした異常能力イレギュラーと音波を操る通常能力ノーマルを合わせた能力音境使い(アトモスフィア)。正真正銘階級九位のバケモノだ』


 俺は授業棟から逃げ出して『約束の場所からは少し離れるが、さっきの騒ぎで警備は厳しくなってるはずだから隠れることを優先する』という峯岸の助言を聞いて誰もいない部活棟まで来ていた。

 万が一見つかっても窓から飛び降りて距離を稼げるという理由で二階をうろつきつつ峯岸の通信に耳を傾けていた。


「イレギュラー?」

異常能力イレギュラー。それともなんだ。『科学的に原理が証明できていない能力の総称』って説明しなきゃダメか?」

「そ、それぐらいわかってるから。というかやっぱりマジモンの九位なのか……やべーのに目付けられたな。これからどうすりゃいいんだ?」


 俺がそう聞くと峯岸は『何を言ってるんだこのバカは』とでも言いたそうな深い溜息を吐いてからこう言い放った。


『何を言ってるんだこのバカは……』


 言われた。


『確かにあいつの性格は好戦的だがあっちにはこちらを追っかけてくる理由がない。どうやら泥棒だと思われてるらしいが実際何か盗んだわけじゃない』

「そ、それもそうだな……」

「はたしてそうかな?」


 驚いて声のした後ろを振り返ると、男子トイレからハンカチで手を拭きながらさっきのヘッドホンが現れた。


「もう来やがったっ……!? ていうか話と違う!」


 イヤホンから峯岸の『テヘペロ』ちう甘ったるい声が聞こえてきた。コイツ……


「まぐれだろうが俺の眼前から逃げ去るとは中々やるじゃないか。だが次はそううまくいくかな?」


 左の窓を横目で見る。

 さっきと同じように窓から逃げる――のは無理だろう。読まれるに決まってる。じゃあ戦う――のはもちろん無理。勝てるわきゃねぇ。となると……。


「これしかねぇッ!」

 

 そう小さくぼやいてからヘッドホンに背を向けて真後ろへと全力で走った。


「鬼ごっこか、いいだろう。もう一度逃げ切るつもりなのもいいが二度目はないぞっ!?」


 後ろを確認するとヘッドホンが普通に走っておっけてきていた。


「能力を使って速度アップなんてことはなかったけど普通に速いし下手すると追いつかれるか……」

『で、ここからどうするんだ』

「体力に自信がないわけじゃないししばらく逃げまわる。運がよけりゃまけるだろ」

『運の方は?』

「自信ねぇなぁ……」

『はぁ……まぁ私としちゃ風見に端末を渡せさすりゃ後はどうでもいいんだが……』


 薄々思ってたけど性格悪いなコイツ。


「そーですかい……とりま、走りながら喋ってると疲れるから黙るわ」

『了解ーこっちはこっちでなんか対策考えとくよ』



――――――

――――

――



「……やっぱりお兄ちゃんの匂いがする」

「休みボケって怖いな」

「違うって! やっぱりいる気がするんだって! ……ってあれ、なんか紙が机に入ってる」

「まァたァアンタ恋文貰ってんのかあアァン!?」

「まぁまぁ落ち着け落ち着け……どうどう」


――――――

――――

――


「一体どこまで逃げる気だァ!?『Mezzo(メゾ ・) Forte(メゾ・フォルテ)』!!」


 後ろから追いかけてくるヘッドホンが叫びながら音の弾丸を飛ばしてくるのを、左右に勘でかわしながら人のいそうな場所を避けて逃げまわる。

 弾丸が当たってないところを見ると大きさもそれほどないみたいだからそれは安心だが……。

 マジでこれからどうすりゃいいんだと心のなかで冷や汗を垂らすと。イヤホンから声が聞こえてきた。


『おい風見兄。いいこと思いついたぞ』

「声出すの割と辛いから手短に」

『私がナビるからその通りに行け。そこ右』


 とりあえずこのままじゃどうしようもないと思い。言うことに従って廊下を右に曲がると前から普通に女子生徒が歩いてきていた。


「きゃあっ!?」

「うぉっと……っ!? す、すまん!」


 ぶつかりそうになった女子に適当に謝っても体制を立てなおす。


「いきなり生徒にバレたんだが!?」

『そりゃもう集会は終わってるし、これから通るルートは人に見つかる可能性が高いルートだからな。あ、次左』

「くそっ……このあとどうすりゃいいんだ……」

『不法侵入でなんか言われたらこっちがどうにかする。てか先公に見つからない限り生徒にいくら見つからろうがどうせ顔なんて覚えとらん』


 割りとまともなこと考えてたのか……。


「その……ごめん。俺アンタのこと自分のことしか考えてない自己中かと……」

『ハッハッハ。イイッテコトヨ―あ、次に見える階段を下におりて、その先に見える渡り廊下に行ってそっから飛び降りろ』

「は? でも落下中無防備になるからあぶねぇんじゃ……」

『そろそろ時間だから大丈夫。あと男だろ一発ぐらい我慢しろ』

「前言撤回。いつか会ったら覚えとけよ」


 渡り廊下にたどり着き、仕方ないかと腹をくくってから手すりに手をかけ身を乗り出し飛び降りる。


「二度目はないと言った筈だ……! 『Fortissimoフォルテッシモ』」

「……ッ」


 落ちながら後ろを見ると、ニヤリと嫌な笑みを浮かべながらこっちに狙いを定め、


「放て」


 緋色の身体に音の砲弾が直撃した。

 感想、誤字脱字等お待ちしています。

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