18話 開戦の合図は美しい音色と共に
変なタイトルを見たかな。と思ったそこの君。君は何も見てない、イイね?
「だってもう犯罪じゃなないすか! 不法侵入だよ!」
「不法侵入は犯罪だけど、悪いことしようとしてるわけじゃないだろ。むしろ雷電部隊の仕事の一環で来てるんだからいいことだろ」
酷い屁理屈を見た。
『ほら。わかったらさっさと行く行く。じゃないと妹にアンタの過去バラすよ』
「サラッととんでもないこと言いやがったぞコイツ!?」
『むしろ弱みになるであろう情報を知ってて、使わないでいてあげてるんだから。感謝して欲しいぐらいだね』
『今日もついてねぇ……』と小さく呟いて、壁を登る。赤レンガの壁は割りとでこぼこしていて、昔から木登りをよくしていた野生児の俺にとっては特に造作もない。
そしてそのまま登りきり向こうの芝生へとさっと着地する。
『あ、端末は付属のイヤホンを付けて……そうそう、掃除機のコードみたいにシュルシュル出てくるから。その状態で胸ポケットか無ければ手に持っておくとかしといてね。そこら辺にあればこっち側で大体音が拾えるから』
「了解した……」
手についた土をパッパと払い、俺はため息混じりに返事をしながら端末を胸ポケットの中へと押し込んだ。
今日も長い一日になりそうだ。
☆☆☆☆☆☆☆
「きゅぴーん……!」
「? どうしたの優子」
「今お兄ちゃんの気配がした気が……!?」
「ついにボケ始めたかこの子は……ここはもう学校だぞ―目を覚ませ―」
「うあうー……ガクガク揺らさないで―脳がバターになっちゃうー」
「ほら。体育館行くよ。支度しろー」
☆☆☆☆☆☆☆
「つーかさ。親族すら入れないって厳重すぎないか?」
壁のよじ登って侵入してから峯岸の指示通り進んで特に問題なく校舎まで辿り着いた俺は。校舎の近くの垣根の根本で校舎内が静かになるのをジッと待っていた。
「この街で親族がいるって方が超珍しいんだよ。普通は学生なら大体寮行きだからな。お前やお前の周りのやつは珍しい方なんだよ」
確かに、超能力者だけを集めたこの街では俺とゆうみたいに家族が一緒に能力を発現させるのはそうあることじゃない。
さらに身近な保護者といえば、ある程度の人選はされてるとはいえ元々ただの一般人の子供とは無関係の寮長や管理人達だ。それじゃあここまで警備が強くなるのも当然……なのかもしれない。
「この街は化け物どもの寄せ集めだ。どんな大惨事が起ころうが不思議じゃない」
「まぁ……そりゃそうかもしれんが……」
「そんなどうでもいいことよりほら。全員体育館に集まってるから今のうちだ」
ちらっと垣根の上から顔を覗かせるとたしかに人気はなくなっていた。辺りに誰もいないかもう一度確認し。それからオレはささっと垣根を飛び出て裏口の扉から校舎内へと進入してから扉からすぐの階段を3年の教室がある三階まで駆け上がる。
「ところで、どうやって直接渡せばいいんだ?」
「机の中にでも書き置き置いといて、人気のないところに呼び出せばいいんじゃないか。紙とペンは?」
「財布の中にレシートが。けどペンがない」
「妹の筆箱からでも借りておけ」
「そうだな……っと、3-Aはここか」
三階まで上がりきり、すごのそこの教室の入り口のクラス名に『3-A』と書かれているのをもう一度確認して教室の中へと入る。
「風見風見……さし、そ、か……あ、ここかな?」
見慣れたバッグのかかった机の中を覗き込み中を漁る。チラと『実は違う人の机だったらどうしよう』と思ったが、そんなことも杞憂に終わり、お目当ての紺の布製の筆箱を見つけた。
筆箱からペンを取り出しメモ用紙にささっと『集会が終わり次第体育倉庫裏で待つ』と書いて、筆箱を元に戻した。
「さて、じゃあさっさと済ませて隠れ場所を探しますかね……」
と、教室から離れようとした瞬間。
「『segno』そこで何してんの?」
「!?」
驚いて振り向くとそこには着崩したこの学校の制服と高そうな大きいヘッドホンを付けた、目つきの悪い男子が立っていた。
『どうした? 何かトラブルか?』
「大丈夫……生徒に見つかっただけだ……」
イヤホンから流れてくる峯岸の声に小声で返事をしつつ相手の様子をうかがう。
『生徒か……なら大丈夫だな。逃げろ』
「そうさせてもらうよっ!」
言うが早いがヘッドホン野郎の前から身体を反転させて扉から出ようと走りだす。
「『dal segno』俺を無視して逃げようなんて……いい度胸だな」
「!?」
扉に差し掛かった辺りで、何故かさっきの場面と同じヘッドホン野郎の前に立っていた。
「こ、これはかの有名なポルナ○フ状態!? ていうことは時間停止能力者!? マジかよ最強じゃん!」
『嬉しそうな声出してないで状況を説明しろ! 何が起こってる!?』
「あ、ありのまま今起こったことを――」
『ふざけてないでちゃんと説明しろ!』
「教室から出ようとしたら教室内に戻っていた……なにを言ってるかわかんないと思うが俺にもわかんねぇ……」
『時間停止能力者なんて聞いたことないぞ……それこそランク10位に入ってないなんておかしいし……』
そんな感じでヒソヒソと話しているとヘッドホン(野郎)が肩を小さくふるふると震わせて事に俺が気づくとドンッと足を踏み鳴らして叫んだ。
「『mezzo forte』……! それでもまだ無視とは……ッ!? 死にたいらしいなッ!」
メゾ・フォルテ? と思っていると。突然辺りに綺麗な音を響いたかと思ったら。相手の手に見えた定規やコンパスなどの文房具に気付き嫌な予感がするとともにとっさに身を翻す。
その瞬間さっきとはまた違った綺麗な音とともにズドンッという鈍い音が響いた。
「危なっ……ッ!?」
危ないなと言いかけてさっきまで立っていた場所を見ると。そこには吹き飛んできた定規や分度器が地面に突き刺さっていた。
『どうした!? 割と大きい音がしたぞ!?』
「ヘッドホン野郎がメゾ・フォルテとか叫びながら文房具投げてきやがった!」
『メゾ・フォルテ……? ッ!? おい風見兄逃げろ! そいつは―――――』
と、急にイヤホンから音が聞こえなくなってしまった。こんな時に故障か……!? とイヤホンを外してみるも特に目立った断線などはない。
「『fine』俺様の周りの音を遮断させてもらった。外部の音がこっちには聞こえないし、内部の音が外に漏れることもない……便利だろう? 盗人」
「てめぇ……一体何もんだ」
年下とはいえ侮られまいと目で睨みつけながら尋ねる。するとヘッドホン野郎はフッと笑ったあと、ヘッドホンを耳から外して首に引っ掛け直して高らかに叫んだ。
「階級第九位。音響の無い音楽会。音無音也だ。記憶に焼き付けておくがいいさ、盗人」
階級九位。それを聞いた時汗がどっと噴出すのを感じた。
つまりコイツは……!
「ゆうの上……!?」