17話 もうすぐで休みが終わるあの空気
また遅くなってさーせん!! 次は早いとはなんだったのか……有言不実行って最悪ですよね、ハハ……
美咲の宿題事件から三日経ったある朝。俺は、始業式でゆうのいない静かで優雅な朝を過ごしていた。
「んー……あいつ(ゆう)がいないと平和でいいなぁ……」
などと、ゆうに聞かれたら発狂しかねないようなことを口走りながら、今日はこれからどうしようかと考えていると。隣のゆうの部屋から、何やら陽気な音楽が聞こえてきた。
「携帯でも忘れたのか?」と思い部屋に入ると、ベッドのうえの見慣れない端末から流れてきていた。なんだこれと思っていると、端末からきれいな女声の機械音声で「所持者以外の気配を察知。落とし物Modeに移行します」と流れてきたあと、どこかで聞いた記憶のある怒鳴り声が耳に飛び込んできた。
「あのクソガキまた端末落としやがったな……!? クソッ、尻拭いをするのはこっちだってのに……」
「……あの」
「あぁん!? 今こっちは取り込み中なんだよ!!」
「……サーセン」
とりあえず落ち着くのを待とう。俺はまためんどくさそうなことになる予感を感じながら、ため息をついて端末をベッドの上に放った。
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「で、なんてったけ名前」
「……緋色」
「はいはい。ひいろひいろっと……って一致件数一件か、ちょうどいい」
とりあえず、端末から聞こえてくる声に従いながら、声の主を思い出そうとしていた。男なら
まだしも、女子(子?)知り合いなんてそう多くないから特定は簡単なはずなんだが……。
そんな風に必死に思い出そうとしていると、また端末から声が聞こえてきた。
「――っと……って風見ってことはあいつの兄貴じゃねーか」
『あいつの兄貴』
俺の兄弟は妹一人しかいないわけで、妹を知ってるやつとなると――――と、そこでようやく線が繋がった。
「あぁ! あの時ゆうと喧嘩してた人か」
「ん? あぁ、そういやこの前通信越しで聞いてたんだっけか? お察しの通り、あんたんところのクソガキの同僚の『峯岸 祐子』だ」
「俺はお察しの通りゆうの兄の風見緋色っす。妹がいつもお世話になってるようで……」
「世話どころの話じゃ済まねえよ。んでそんなことよりその端末はどこで拾った? 拾ったのが兄貴ってことだし、まさかまた外じゃあないとは思うが」
一瞬、律儀に『妹の部屋の中』と答えようとしたが、妹の部屋に勝手に入る兄だと思われるのもなんとなく嫌だったので『一応家の中っす』とだけ答えといた。
「てことは落とし物じゃなくて忘れ物だな……まぁ、めんどくさいことにはかわりねーか」
「そんなに大切なもんなんすかこれ?」
「雷電部隊員に一個渡される専用端末。ナビ用の人工知能が一個一個に入ってる高級品だから替えがきかん代物よ」
「人工知能ぅ!?」
「あぁ、人工知能っつってもベースになったオリジナル以外は、機能制限がかかった量産型だし大したことはできないよ」
『まぁわたしんとこの端末はその制限を解除して、さらに個人個人である程度カスタマイズしちゃってるんだけどね!』とさらっとすごいこと言いつつ得意気になってるがそんなことして大丈夫なのだろうか。
「んじゃあ悪いがその端末をあんたの妹ん所に届けてくんないか?」
「えっ……俺がっすか……」
「この状況であんた以外できる人間いないだろうに。一応悪いとは思うがこれでも割りと急いでるんだ」
一応ってなんだ、一応って。
「まぁ…………しょうがないっすかね」
「引き受けてくれるか。妹違って兄貴は物分かりいいね。じゃあ風見……って両方風見か、あいつのいる学校まで頼んだぞ。あ、あとくれぐれも他人任せにしたりしないで直接渡してくれよ」
何も考えずにわかったとだけ返した俺は、このあとに待ち受ける苦難なぞ想像もできずに『そういやあいつの学校に行くのは初めてかもしれん』等とのんきに支度をしていた――――
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「忘れ物なら検査のあと本人に届けられるけど……直接は規則の関係で無理なんだよねぇ。物騒な世の中だし、いくら家族っていっても生徒に会わせる訳にもいかなくてね。ぶっちゃけ直接じゃないとって怪しいからダメなのよ」
――――――
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――
「いや、詰んだんですけどこれ」
「クソが……無駄にセキュリティ高い名門なんか通うからこうなるんだ……リア充め……」
文字通りの門前払いだったことを峯岸に伝えると何やら私怨の混じった声でぶつくさ言っているのが聞こえてきた
それよりも自分の妹が、あんなアニメに出てくるような豪邸みたいな学校に通ってるとは思わなかった。ミニチュア凱旋門みたいなレンガ造りの門から中覗いたら、しばらく庭園が続いてたけど本当に中学校なのかあそこ。
「腐っても階級二桁ってことか……ふざけやがって……」
「……ランクってなんすか?」
「ん、あぁそうか……一般人は知らなんだったな。ちょうどいい機会だから。教えてやる。とりあえず作戦があるから、話聞きながらこのポイントに迎え」
と言うが早いか、端末にすぐ近くの場所が指定されている地図が送られてきた。なるほど、確かに便利だ。
そんなことを考えながら指定された場所まで歩き始める。
「階級って言うのはそう難しい単語じゃない。ただのこの街にすむ超能力者の超能力の能力ランキングだ」
「えっ、さらっと言ったけどそれって差別なんじゃ……」
「そうだな。だから一応(、、)公にはなってない。まぁ知ってるやつは知ってるってレベルだ」
もしそれが公になったらすごいことになるだろう……この街だけでも少なくとも2.3千人は住んでいる。その全員がランク付けされいるなんてわかったら、ただでさえデリケートな超能力の問題が、イジメなんて問題じゃないレベルの差別に広がる。
ということに驚きつつも心のそこでは『自分のランクはどれくらいなんだろう』という気持ちでいっぱいだった。
「というか階級二桁ってひょっとして……!?」
「最強の二桁『位格下げ』風見優子。階級は十位だ」
父さん、母さん。妹はとんでもない場所まで行ってしまったようです。
「つーかあいつの能力も割りとチートだよな……上に九人もいるのかよ……」
「力の向きを変える程度じゃ一応物理法則には則ってるからね。七位の魔女なんかは魔法を使えるって話だし九位も……っと座標についたみたいだね」
端末を見ると、さっきの地図に表示されたポイントの真上まで来ていた。辺りを見渡すと、ゆうの学校からは離れていなく、レンガ造りの高い壁が右手に見えた。
「そこからなら内側の監視カメラの死角になってて、大きな音を出さない限りバレやしない。幸いあんたの能力も念動力みたいだし、身体は浮かせられなくても軟着陸くらいはできるでしょ」
「え……それってつまり……」
峯岸の作戦に気付き嫌な汗が流れる。つまりこいつの言ってることは…………。
「もう一度言おうか。その端末を直接手渡して来てくれ」