12話 Story of rebellion
ヒーローが自らの手の届く悲劇しか救えないと言うなら。
全ての悲劇をヒーローの手の内に持ってこよう。
これはそういうお話。
「と、とりあえず歩きながらでもいいから状況を整理しよう」
「うむ」
「お前は10年前に行方不明になった姉を探しながら暮らしてたと」
「うむ。血が繋がってるわけではないがな」
「そして目撃証言? のあったこのデパートに来たと」
「そういうことだな」
「帰っていいか?」
「さっきの主人公云々はなんだったのだ!?」
「だから俺は主人公って柄じゃないんだってば。ただの高校生だっての」
あれから俺は混乱した頭を置き去りにしたまま愛宕と一緒に歩いていたが、さっき頭が覚醒し今こうして脳内を整理しているとこだった。
「で、俺はお前と一緒にお姉さんを見つける約束しちゃったと」
「う……騙したような形で悪いとは思っているが、別に私が頼んだわけではないし……元々諦めかけてたのを友達からそれっぽい人を見たと言われて探しているだけなのだ。嫌だったらやめてもらっても……」
「……はぁ」
「え?」
俺はため息をついてから愛宕の頭に手を置く。
「確かにすっげーめんどくさいけど一回OKしたものを断ったりなんかしないよ」
「そうか……例は言わぬぞ緋色ど……殿。あと頭撫でるのはやめろ」
「いやぁ、なんか昔の妹を思い出しちゃって……」
「ふぅん……」
昔の妹といったあたりで愛宕が少しムッとしたような顔をしたが、二人はまた無言のまま歩き続けた。
(でも探すっつってもどうすりゃいいんだろうな……)
そう思って辺りをきょろきょろと見渡すも、もちろん見つかるはずもなく俺はまたため息をついた。
「どうしたもんかねー……」
「おr……私はまだそこら辺をうろついてみるつもりだが別に付き合う必要はないぞ。緋色殿も自分の用事があるだろうし」
「まーだ言ってんのか。俺は降りるつもりはないし、俺は友達の付き添いで来ただけで俺は特に用事はないの」
「そうなのか? そのご友人殿は今どこに?」
「さぁな。元々何考えてんのかすらわかんねーやつだから何買いに来たのかすら知らん」
「ここならだいたい揃うしな。ご友人殿も何かしらを買いに来たのだろう」
「多分なー……てかその喋り方治す気はないの? 癖で治せなかったり?」
「いや……普段仲のいい友人とかならば普通の口調なのだが、まぁちょっと乱暴な口調でな。初対面の人間にそんな口調で話しかけるにはいくまいと爺に教えてもらったんだが……」
「変な喋り方だと教えてもらったのはさっきなんだがなー……」と下を向いてあはははーと虚ろな目を浮かべていた。幼女だし意外と騙されやすい性格なのかもしれない。
そんなの無駄話をしながら、途中でカフェに寄ったり遊んだり人探しでも何でもないことしながら歩いていると、いつの間にか時計の針が3時を指していた。
「んーッ! もうこんな時間かぁ」
「付き合わせて悪かったのぅ」
「どうせ遊んでたみたいなもんだし全然構わねーよ……ん?」
ふと前を見てみると人ごみの中からこっちに向かって手を振りながら近づいてくる奴がいた。ていうか恭介だった。
「あれは例のご友人殿か? ……ってげっ」
「出会い頭にゲッとはご挨拶だな長生蘭君。それと緋色。久しぶり」
「久しぶりってなんだ二時間ぶりぐらいだろ。そんなことよりお前こいつと知り合いなのか?」
問いかけると恭介はなぜかキョトンとしたように首をかしげてから、一回愛宕の顔を見てから俺の方に顔を戻してこう言った。
「なんで二人が一緒にいるんだ?」
「おせーよ」
「ま、大方の予想はつくけどな。さすが『主人公』と言ったところか」
まぁコイツの言うところの主人公が発動したのは確かなのだが……相変わらず変な勘が鋭い。
「で、こっちは本当に久しぶりだね長生蘭」
「こっちはお前なんかと会いたくはなかったけどな!」
「随分と嫌われてるな恭介」
ふんっ! と拗ねたような顔をする愛宕は少し可愛いが。
「で、なんでお前は長生蘭のこと知ってるんだ?」
「それはまぁあいつ経由だが……ふむ、そのことはまた今度にしとこう。じゃあ先を急ぐから俺は行くぞ。今日は付き合わせて悪かったな緋色。長生蘭もいずれどこかで」
「あ、おいちょっと!」
恭介はそれだけ言うときた時と同じようにまた人ごみに紛れて見えなくなってしまった。
「はぁ……ほんっと自分勝手だよなあいつは」
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―――
――
俺たちはその後少しだけ探索したが、結局生き別れの姉なんて大層な捜し物見つかるはずもなく、夕暮れに染まったデパート前の入口に来ていた。
「じゃあ今日はありがとう緋色殿。とても楽しかった」
「人探しで楽しかったってのも変な話だけどな。おれもたのしかったぜ」
「じゃあ私はこれで撤収するとするよいつかこの礼は……『あ、ちょっと待って』ん?」
少し引き止めて愛宕のスカートの右ポケットにあったケータイを念動力で引っ張り、メールの画面を出してポチポチと自分のメアドを打ち込んだ。
「じゃあ今日の報酬はそれってことで。お前もそれでいいならそのメアドに空メールでも送ってくれ。また人探しの時にでも呼んでくれ。約束は果たす」
ケータイを愛宕に投げ返すとそのままキョトンとした表情で固まっていたのでちょっとキザっぽかったか……? て内心少し心配していると、
「プッ」
と吹き出した。
「アッハッハッハ! なんじゃそりゃなんだそりゃ! そりゃぁ主人公って言われたりするわけだ!」
「確かに気障っぽかったけどそこまで笑う!?」
「はぁ、はぁ……いいよ『気に入った』またいつか手伝いを頼むよ……っと、頼みますぞ」
「はぁ……別に無理しなくていいよ。俺、恭介の時も思ったけど無理してない口調の方が好きだし」
「ふぅん。まぁ俺もこっちのほうが話しやすいからな。そうさせてもらうよ」
そう言うと鋭そうな歯を見せてニカッと笑った。多分こっちのほうが親しみやすいのは姉御の影響もあるんだろうな。
でも、それにしても。
「キャラ違いすぎだろ」
「俺もそう思うぜ」
こうして俺と奇妙な幼女との邂逅は幕を閉じた。
※前書きはストーリーとは一切関係ないかも知れないし関係あるかもしれません←
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