10話 事の顛末
後日談。というかあれから数分しか経ってないので後日もクソもないんだが。
あのあと人質を無事にがした俺は、急いで元の銀行のところまで走った。裏口の扉を開けて戻ってくるとそこには夕日を背中に浴びながらミルザムを抱えている妹の姿があった。
「よ、無事か?」
「ふふんっ、見ての通りだよ!!」
服は擦りきれたり焼け焦げたあとでボロボロになっていて足や腕も擦り傷でいっぱいだったが、目立った傷はないので俺は少し安心した。
「ならいいんだけどさ。……そいつ、死んでないよな……?」
「……この程度で死ぬわけ無いでしょう」
そう答えたのはゆうに担がれているミルザム本人だった。
「元気そうで何より」
「この状況が元気そうに見えるっていうならあなた眼科に行ったほうがいいわね」
「よく言われる」
瞬間、なぜかゆうが担いでいたミルザムをそのままポイッと投げた。
「乱暴ね」
投げられたミルザムは逆U字を描きながら空中でくるっと一回転しそのまま床に着地した。なんなんだこいつら。
「ていうかゆう、こいつ一応容疑者なのに自由にしといていいのか?」
「大丈夫大丈夫。もうこいつも抵抗する気はないみたいだし。したとして押さえつければいいし」
不穏な会話だった。というかミルザムは隅っこに捨てられていたVz.61を拾いあげているけど本当に大丈夫なのか……?
「そろそろ回収部隊が来る時間……。しっぽりと訊問されるといいわ」
「じっくりな」
濡れ場にしてどうする。
「そうだ、ちょっと質問してもいいか?」
「あなたならいいわ。なんなりと」
「どうして人質に俺を選んだんだ? こういういい方しちゃ悪いが俺のほかにも女性や老人もいたはずだ。人質ならそっちのほうが適役だったんじゃないか?」
確かに、能力者しかいないこの街じゃ見かけで判断すると大変なことになるがそれでもその条件ならおれも同じはずだ。
「そうね……あなたのことが気に入ったから。とあの時言わなかったかしら?」
「そんなの嘘だろ。本当で言ってるんだったらお前こそ眼科行ったほうがいいな」
『え、その理屈だと私も行かなくちゃならないんだけど!?』とかゆうがなんか言ってるが気にしないで話を続ける。
「……私の能力その子に聞いたかしら?」
「いいや」
「読心能力よ。それもできそこないのON.OFF不能で受信限定のね」
「なっ!?」
銀行強盗しているからてっきり攻撃系の能力を持っているのかと思っていたのもあったが、まさかそんな能力だったとは……。
「ON.OFF不能って……それ大変なことなんじゃ……」
「ええ。半径2mにいる人間の思考が全部私の中に流れ込んでくるわ」
前に精神系能力者は心が壊れやすいと聞いたことがある。『他人のココロ覗くってのはそーいうことなんだよ』とうちのクラスの担任は言っていたが……。
「他人の心を覗くっていうのはそういうことだよ。ほんとにね」
そう彼女は自嘲気味につぶやいた。
「『死にたくない!!』『選ぶならあいつを!』『俺よりそっちの女を!』それと……」
「?」
「あの時に捕まえていた人質たちの心の声よ。まぁ私達の人質になってるんだから生き残りたいと考えるとは当然の発想よね」
『けれどあなたは……』と言いミルザムはこっちを向きながらフッと笑って。
「『つってもこの状態じゃぁ俺にゃ何もできないんだけどなー。一人ぐらいなら奇襲でなんとかなったかもしんないけど三人もいるとなるとなぁ……』
「!?」
「あなたあの時私たちに勝つ気でいたのね……良くも悪くも兄妹ってことね」
「さっすがお兄ちゃんかっこいい!!」
「だぁぁぁあああああ!! カッコイイっていうなぁぁぁああああああああ!!!!」
かっこよくなんかない!! ただあの頃の癖が抜けないだけなんだよ!!
そんな感じで一人で悶えているとAegisの部隊であろう機動隊みたいな格好した人たちが入ってきた。
「それがあなたのことをちょっといいな……って思っちゃった理由よ。……っとちょうどいいところでお迎えも来たわね」
入ってきた人たちの中から隊長らしき人物が進み出てきた。その隊長は壁にもたれかかって気絶しているラウラとシリウスを横目で見たあと、ミルザムを一瞬睨んでからゆうに視線を戻した。
「Aegis第四部隊隊長内ヶ島猛だ。雷電部隊第三支部支部長風見優子だな。容疑者の身柄を引き取りに来た」
「どーぞどーぞハイエナさん♪ あ、あと搬送は正規のルートじゃなくてこちらの指定するルートを使ってください。何やら変な予感がしますので」
ゆうはたまーに『乙女の勘』という言葉をよく使う。ゆうが雨が降りそうと言ったらだいたい当たるし。ゆうが『よくわかんないけど何かあるかも』と言えば大体何かしらあるのだ。
「……わかった。岩波、そいつらを護送車に乗せろ」
『は、はい!』と岩波と呼ばれた隊員が気絶している二人の方へ走っていった。
「じゃあまたどこかで会いましょうお兄ちゃん」
「お兄ちゃんって呼ぶな。俺の名前は風見緋色だ」
「『桐咲まどか』よ。じゃあまたどこかで会いましょう緋色」
「ぜってーお断りだ」
そんな会話を最後にしミルザム――まどかは残ったAegisの人に連れて行かれた。一人残った隊長はゆうを横目に見ながら。『……化物のガキが』と小声でつぶやいた。
☆☆☆☆☆☆☆☆
風吹くとあるビルの屋上。金髪でいかにもチャラそうな男と、ワインレッド髪の化粧をした二十代後半らしき女が、フェンスの上に腰掛けて下を見ていた。
「ちょっとちょっとちょっと!! 誰っすか誰っすか護送車ここ通るって言ってた人は!!」
「うっさいわねー、私よ私! 私ですぅーなんか文句?」
「ぜんっぜん来ないじゃないっすか!! この蒸しあっつい中任務こなすために待ってたんすよ!?」
「うっさいなー……あ、ほらほらっ来たみたいよほらっ!」
「あ、ほんとだ……でもあのロリっ子は乗ってないみたいっすねー……まぁ一人ぐらいいっか」
「そうね。始めるわよ」
次の日。まどか以外のテロリストが護送中に襲撃されたことをゆうから聞いた。