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  作者: 飛鳥
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砂化

一人の男が夕方で真っ赤に染まったレンガ敷の道をゆっくり歩いていった。


特産物と言ったら、大きく、甘く美味しいと評判のスイカぐらいしかないこの村を男は好きだった。

何も変化はなく、それゆえ何も手に入らない、そのまま時間が過ぎ去るこの村で暮らす男に、都会へ出た男の友人はそれで幸せなのか?と聞いてくる、口では幸せだと答えるが、本心では幸せでも、不幸でもない、だが、それがいいと男はひっそりと思っている。


地面よりも濃いレンガで作られた教会に吊るされた鐘が時間を告げる。


鐘に夕日が反射するのを目を細めながら眺める男は、明日がまた来るのだと疑ってもいなかった。

疑うというよりも明日について考えることすらしていなかった。明日というのは考えずとも来るもので、考える必要もなく故に思考の優先度から外れるそれが普通である。


どこかから、叫ぶ声が聞こえ振り返った男は目を見張った。今しがた歩いてきた道の先で建物が砂に飲み込まれた。

砂の津波か?とファンタジーなことを考えながら男は自分の考えが誤りだという事を程なくして悟る。


声を上げたのがその人物かはわからなかったが、建物の近くに居た人が砂となって崩れ落ちるのを見てしまったからである。


それを皮切りとしてその隣、その斜向かい、100m隣の建物と、人、イヌ、車と次々と砂となり崩れ落ちていった。

怒号、悲鳴、慟哭……ありとあらゆる声が交じり合い砂となっていった。

逃げるもの、とどまるもの、座り込むものすべて平等に砂に変わっていった。


教会が砂と変わっていき、吊るされた鐘がその不均衡からゴーンゴーンと狂った様に時を告げる。

それはこれから先の一生分の時を告げるようでもあり、砂に変わった人々があげきれなかった声を代わりに上げているようでもあった。


男は驚き、逃げようとした先が砂に変わっていくのを見て、逃げるのを諦めた。

悲しみと怒りと恐怖をごちゃまぜにした感情がピークに達すると麻痺したのか心は穏やかになり、好きだった村の姿を目に焼付け続けた。

2012/10/18 冒頭部分と、末を少し修正

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