ご乱心姫とポニーテール
まだ残酷な描写はありません。苦手な人カムバック!
「姫様どちらへ!」
「散歩よ…ついてこないでね」
「いけませぬっこれ、皆追うのじゃ!」
「つかまってたまるかっての!」
姫様とかなにこれ。
自由なんて無いし乳母もいれば侍女だっていて常に後ろで見張ってるみたい。
第一私は姫なんかじゃないよ!ただの一般人だった女だよ!
「蛍姫様ー!!」
うわっと、早く隠れなきゃ。慣れない着物を装備して早2ヶ月…姫生活に慣れるなんてとてもじゃないけどあり得ないと実感してる。こんな走りにくい着物なんて脱ぎ捨てたいくらいだよ、まったく。
「ん?ここら辺なら隠れられるかな」
ぎこちなく畳敷きの廊下を走り納戸の扉を開け女とは思えない足音が通り過ぎるまでぎゅっと目を瞑る。
「ご乱心姫ー!」て今だれか言ったな、今度あったら足踏んでやる。
嵐が過ぎ去りふと一息つくと若干目が暗順応していることに気がついた。
めったに入ることのない納戸なんだ、ちょっとくらい探索してみても罰は当たらないといいな。
「さっすがお城…高そうな物品がぞろぞろと」
私には大した価値もないものが埃をかぶったまま眠っていた。興味本位で近くにあった本をとり埃を一息で飛ばすと勢いよくむせた。すぐに手で音量を下げるが…大丈夫足音は聴こえない。
「暗くて見えないな…あきらめよ」
とりあえずは持っていようか。本を左手に抱えたまま捜索再開を宣言した瞬間、
足元の床が な く な っ た
「ひょおっ!?」
一瞬呼吸が止まろうが関係なしに体は落下、どすんと音をたて着地したとおもったら滑り台の様なものが猛スピードで私を運ぶ。直線のみでなく湾曲した形を滑る時は「しぬ」と三回はつぶやいた。
徐々に光がチカチカと視界を過ぎり始め直後滑り台が終わりを告げ勢いそのままビー玉のように畳を転がって襖に後頭部をぶつけ蹲った。
襖が軽くへこんでいるが私の頭もへこんでいるにきまってる。
この仕掛けだって忍者屋敷のところから持ってきたみたいだし…ジェットコースターを思い出したよ。
落ちてきた元凶(滑り台みたいなやつ)は随分と上から繋がってここまで伸びていたようだ。
絶対人用じゃないよね!
「ずいぶんと落ちてきたな。こりゃ帰り道わかんないから迷子だ」
『何奴!?』
「え、人?」
へこんだ襖の向こうから中世的な声が凛として聴こえた。こういうドッキリやハプニングには滅法弱い私なのになぜか心は穏やかで、なんだかへんなの。
というかこんな隔離されたところにいる人といえば…
「泥棒?」
『其方がそうであろう』
「いえ?ただの迷子ですが」
『迷い子?』
スッと襖が十センチメートル程度あいたと思うと息を吞む。その姿はこの時代の人としては珍しくてポニーテイルが揺れ、純日本人の黒眼と黒髪、日に当たらないせいか私よりも白い肌が目立つ。何より鳥の描かれた赤い女性用着物が大人びた雰囲気を醸し出していた。
服装からして女性…かな?
きれいなアルトの声がため息をつきながら襖を限界までひらこうとするが、歪んだ様で途中までしか開かなかった。
じろりと私に目で「おまえだろ」と伝えるが明後日の方をみて誤魔化す。
『迷子と言うたな。迷子にしては随分といい召物だな』
ほんの少し威圧的に聴こえるのは襖を壊したせいでしょうか。
「埃にまみれた姿がいい召物とは変わった趣向のお方ですこと」
『ふむ。なかなか肝もすわっておるが…ん?そなたは…』
ああ。この姿はこのお城のお姫様なんだっけ。態度も変わっちゃうのかな、話しかけた相手が実は社長だったとしった新入社員並みにね?
でもそれって私には、いや、蛍姫にはさびしいものだったんじゃないかな
「…」
頭の痛みも薄らいだのでむくりと体を起して胡坐をかく。この時代に女は絶対胡坐はしない…というより侍女や乳母に本気で怒られる。あれは…うん、私が悪かった。だから勘弁してほしい。
目の前のお姉さんも目を見開いて唖然としてた…でもすぐにニヤリと口角をあげるニヒルな笑みをする。
『その方が”ご乱心姫”じゃな』
「平常です」
『ふふ。蛍姫は花のようにひっそりと生きていたお方ぞ。その様な言動は昔からの使いならばご乱心以外の何物でもない』
お姉さんは正反対の位置の襖を開けて私を呼ぶ。
『来やれ。茶でもだそう』
「…お言葉に甘えて」
この人は城の上位の人間…?それならなぜこんな場所に…?
でもそれは初対面の人にきくべきではないってさすがに分かるよ、自重自重。
にしてもこのお姉さんの発言だと蛍姫の小さい頃を私は知ってるのよ宣言してたよね。
『ご乱心姫、はよう』
「はいはい。お姉さんはせっかちだね」
『お姉さん…?』
「お姉さん。だって初対面でしょう?」
名前も知らないと含みを持たせて。
一瞬目を細めた気がしたけど私に背を向けて部屋に入ってしまう。
『…そうじゃ。ご乱心姫とは初対面じゃ』
聴こえた声は少しだけ無機質なアナウンスを聞いてるように感じた。
蛍姫の記憶と私の記憶は融合しているといってもいいくらい混ざっている。だからこうして生活を送っていく上で必要な知識は分かるし、彼女が知っている人も分かる。
でもこの部屋とさっきの入り口と滑り台(仮)、そしてこのお姉さんの記憶は無かった。
だから分からない。なんか知ってそうな態度と言動だったけど。
「茶ってお姉さんが立ててくれるんですか」
まっすぐな黒髪を揺らすお姉さんはようやくこっちを見てニヤリと笑う。
『なんでも自身の手で行う。それが私の流儀だ』
あらま。姉御気質なんですね。期待できそうだ。
ニヤリとお姉さんの笑い方を真似て敷居をまたいだ。『似ておらぬ』といわれたけど気にしないよ!
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粗末な文を読んでいただきありがとうございます!
前作が設定不備で短編という形で掲載してしまいましたが正しくは連載でした。
すみませんでした。