喫茶店から見る風景
休日の朝、PCを抱えて喫茶店へ向かった。店内はそこそこ混んでいたが、晩夏の公園と池が見える席が運よく空いていた。夏の名残の湿った風が、窓の外の木々をゆっくり揺らしていた。
作業の制限時間は二時間ほど。ふと顔を上げると、池のほとりでカンバスを広げて絵を描く若い女性が一人。その横で中年男性がしつこく話しかけている。知り合いではないのだろう、遠目にも女性が困っているのがわかった。
どうすることもできず眺めていると、反対側からが中年の女性が歩み寄りる。彼女は、淡い水色のロングシャツをゆったりと身につけ静かな気品のある女性に見えた、男性に何か声をかけると男性はすぐに退散した。気品のある女性しばらく画家の女性のそばに寄り添っていたが、やがて静かに離れていった。
数週間後、漸く涼しくなり始めた頃、同じ席に座りPCに向かっていた。顔を上げるとあの日の画家の女性がまた池のほとりでカンバスに向かっていた。その横にはあの静かな気品のある女性が持参したらしい椅子に腰掛けている。今日は赤いワンピースに大きな帽子という装いだった。
二人は言葉を交わすでもなく、画家の女性は黙々と筆を動かし、気品のある女性は池を眺めていた。
池の周りの木々は、ところどころ葉の縁が色づき始め、さらに、季節はゆっくりと進む。何度か池のほとりにいる二人を見かけたが、木々は深い赤や金色に染まり、秋が深まっていくころどちらも公園に姿を見せなくなった。その場所では別の人が絵を描くようになった。
冬の気配が濃くなった頃、その日は公園の見える席は取れず公園に背を向けて座っていた。いつものようにPCに向かって一息つく。ふと視線を上げると、格子越しの席にあの画家の女性が座っていた。手前にはいつも彼女のとなりにいた女性の背中が見える。
彼女が手にしていたのは、公園の池を描いた絵。そして、赤い大きな帽子だけを身に着けた女性の小さな絵だった。
気品のある女性がその絵を大切そうに胸に抱くと、画家の女性は愛おしげに手を伸ばしかけて、そっと引っ込めた。
その先のことは、二人が店を出てしまったのでわからない。
次に二人を見かけたのは、画材も扱う大きな文房具店だった。寄り添うように画材を見ている二人。
心の中で「お幸せに」とそっと声をかけ買い物を手にレジへ向かった。




