面倒なことを押し付けられた…
「あ〜、クソめんど…」
雲一つない晴天。
数百と集まる群集の中、
青年のその呟きにより、辺りは静まり返った。
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東大陸最大の土地と軍事力を有する大国、万姫帝国では、
神聖なる儀式が行われていた。
下界を管理し導く天界。
そんな天の神より造られ、人間国を導き、記し、
その国の“王”を“選定”するため遣わされる“選定者”を迎える儀式――
天来奉迎の儀だ。
六千年以上続くこの国で、
建国より選定者として役目を担っていた者が突如姿を消し、
今日、新たに選定者が遣わされることとなった。
殿上には皇帝と王族達が鎮座し、
正殿前広には数百の大臣や高官が集められている。
儀式は順調に進み、
史実通り、奉迎のための舞台に眩い光が天より差し、広場全体を包み込んだ。
神々しい光にその場の者は目を閉じざるを得ず、
光が収まるのを待って瞼を上げれば――
そこには到底選定者とは思えぬ姿の者が立っていた。
本来、選定者とは神の使いと言うに相応しい、
透き通る青い瞳に純白の髪と衣を纏った神々しい姿をしている。
が、此度遣わされた選定者は、
血のような真紅の瞳に、漆黒の髪と衣を纏った、
とても神の使いとは思えぬ者だった。
会場には一斉に動揺の声が広がり、
選定者へ疑念の眼差しが向けられる中――
その選定者が発した第一声が、冒頭の言葉だった。
観衆の視線も言葉も気にすることなく、
舌打ちと共に気怠げに吐き捨てられたその言葉に、
場は凍り付く。
だが選定者はそれすら意に介さず、
ため息を吐きながら丹陛前までの御道を堂々と歩き
こちらを見下ろす皇帝と王族達を、
大胆にも真っ直ぐに見上げ、
「ハァ、面倒なことを押し付けられたな…」
と呟いた。
【用語補足】
※あくまで作者が調べた範囲での解釈です。
史実とは異なる場合がありますが、
本作の世界観における設定としてお読みください。
・殿上
皇帝や王族が座す、正殿の上段部分。
・正殿前広
正殿の前に広がる石畳の大広場。
儀式や朝議が行われる場所です。
・丹陛前
“丹陛”が正殿前にある大階段のことなので、
その階段下に位置する場所のこと。
臣下が進み出る際の定位置。
・御道
正殿前広の正殿へまっすぐ伸びる中央の石畳(道)。
皇帝だけが通ることを許された神聖な通路。




