第十八章 魔王城
魔王城への進軍が始まって、十日が経った。
誠司の計画通り、補給線は確保され、軍は順調に北上していた。
途中、魔王軍の妨害は何度かあったが、いずれも撃退した。勇者たちが前線で敵を蹴散らし、誠司が後方で兵站を管理する——この体制が、うまく機能していた。
そして、ついに魔王城が見えてきた。
「あれが、魔王城か……」
誠司は、丘の上から城を見つめた。
黒い岩で造られた巨大な城。周囲は険しい岩山に囲まれ、攻め込むルートは限られている。城壁は高く、頑丈そうだ。所々に塔が立ち、見張りの兵士が配置されているのが見える。
「どう見る」
隣に立つセレスティアが尋ねた。
「正面からの攻略は、難しいですね」誠司は答えた。「城壁が高く、門も頑丈そうだ。普通に攻め込んだら、甚大な被害が出る」
「では、どうする?」
「二つの方法を考えています」
誠司は、手元のメモを見ながら説明した。
「第一は、カイルの潜入。城の裏側に、下水道の出口があるはずです。そこから忍び込み、内部から門を開ける」
「下水道?」
「はい。どんな城にも、排水のための下水道がある。魔王城も例外ではないはずです」
「どうしてそれが分かる?」
「城の構造を見れば分かります」誠司は言った。「あの城壁の下部に、小さな排水口がある。あそこから水が流れ出ているということは、内部に下水道があるということです」
セレスティアは、感心したように誠司を見た。
「あなたは、城を見て、それだけのことが分かるのですね」
「建物を見るのは、俺の仕事ですから」
「第二の方法は?」
「結界の突破です。マリアが結界を弱め、リヴァンが攻城兵器で門を破壊する。第一の方法が失敗した場合のバックアップです」
「攻城兵器は?」
「製作中です。あと二日で完成します」
セレスティアは頷いた。
「では、二日後に攻撃を開始しましょう」
*
攻撃当日。
夜明け前、カイルが潜入を開始した。
「成功を祈る」
誠司がそう言うと、カイルは軽く手を上げて闇の中に消えていった。
誠司たちは、丘の上で待機した。
予定では、カイルが潜入に成功すれば、城内から狼煙が上がる。それを合図に、正面から突入する——という計画だった。
一時間が経った。
二時間が経った。
狼煙は、上がらなかった。
「失敗したのか……」
リヴァンが呟いた。
「まだ分からない」誠司は言った。「潜入には時間がかかる。もう少し待とう」
しかし、さらに一時間が経っても、狼煙は上がらなかった。
「これ以上待つわけにはいかない」セレスティアが言った。「夜明けが近い。明るくなれば、こちらの動きが敵に見える」
「分かりました」誠司は頷いた。「第二の計画に移行します」
攻城兵器が、城門に向けて前進を開始した。
巨大な破城槌。木と鉄で作られた、重量数トンの兵器。これを城門にぶつければ、どんな門でも破壊できる——はずだった。
*
「結界を展開します!」
城門に近づくと、魔王城の結界が光り始めた。
紫色の光が、城全体を覆っている。この結界がある限り、物理的な攻撃は城に届かない。
「マリア!」
「分かっています!」
マリアが杖を掲げ、呪文を唱え始めた。
彼女の体から、白い光が溢れ出す。その光が、結界にぶつかり——
「抜けた!」
結界の一部が、消失した。城門の周辺だけ、結界が消えている。
「今だ! 破城槌、前進!」
兵士たちが、破城槌を押して城門に向かう。
しかし——
「敵だ! 敵が城壁から攻撃してくる!」
城壁の上から、矢と魔法が降り注いできた。
兵士たちが次々と倒れる。破城槌を押す人手が足りなくなる。
「盾兵、前へ! 破城槌を守れ!」
セレスティアの命令が飛ぶ。
盾を持った兵士たちが、破城槌の周りに集まり、頭上からの攻撃を防ぐ。
その間にも、破城槌は前進を続けた。
そして、ついに城門に到達した。
「衝撃に備えろ!」
ガァンッ!
破城槌が城門に激突した。門が軋み、亀裂が走る。
「もう一回!」
ガァンッ!
さらに亀裂が広がる。
「三回目!」
ガァンッ!
城門が、崩壊した。
「門が開いた! 突入だ!」
リヴァンが先頭に立ち、城内に飛び込んでいった。
誠司は、後方から戦況を見守っていた。
「マリアの状態は」
「疲労していますが、まだ戦えます」
「カイルは?」
「まだ連絡がありません」
「……」
誠司は、唇を噛んだ。
カイルの安否が気がかりだった。しかし、今は目の前の戦闘に集中しなければ。
「医療班を前進させろ。負傷者が出たら、すぐに搬送できるようにしておけ」
「分かりました!」
*
城内での戦闘は、激しさを増していった。
狭い通路での白兵戦。魔法の応酬。敵の罠による被害。
しかし、リヴァンを先頭にした突撃隊は、着実に前進していった。
やがて、城の中枢に到達した。
「魔王はこの先だ」
リヴァンが言った。
その時——
「リヴァン! 上だ!」
声が聞こえた。
カイルだった。
彼は、天井近くの梁の上に立っていた。
「カイル! 無事だったのか!」
「何とかな。だが、中は罠だらけだ。気をつけろ」
「狼煙が上がらなかったぞ」
「途中で敵に見つかった。狼煙を上げる暇がなかった。だが、門は開けられなかったが、代わりに魔王の部屋の位置を突き止めた」
「どこだ」
「この通路の突き当たり。大きな扉がある。そこだ」
リヴァンは頷いた。
「よし、行くぞ」
突撃隊は、最後の通路を駆け抜けた。
そして——
巨大な扉の前に到達した。
扉には、複雑な紋様が刻まれている。魔法的な封印だろう。
「マリア、開けられるか」
「やってみます」
マリアが呪文を唱え、扉に手を触れた。
紋様が光り——そして消えた。
「開いた」
リヴァンが、扉を押し開けた。




