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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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桃色きらきら

「なんということでしょう!?」


私は思わず口元を押さえ、その場で気配を極限まで薄めていた。

壁際。柱の影。

物陰という物陰を総動員し、モブとしての存在感を限界まで下げる。


「……いきなり隠れろってなんだよ?」


隣で半眼になっているヴィルの声が低い。


「み、見て……!」

「何をだよ」

「か、か、髪に口付けを落として……見つめ合ってる……!」


視線の先。

冬の気配が漂いはじめた学園の回廊。

そこだけ、なぜか空気が違った。


桃色の髪が、やわらかく揺れている。

その髪に、銀色の青年が顔を寄せ、そっと唇を落とした。


――あまりにも自然で、あまりにも甘い。


距離は近いのに、触れすぎていない。

でも、確かに「ふたりだけの世界」がそこにあった。


「秒読みだ!!」


思わず小声で叫ぶ私に、ヴィルはため息混じりに返す。


「よかったな」

「軽っ!?」

「……っていうか」

「なに?」

「俺の足、踏んでるぞ」

「え?」

「砕ける一歩手前だ」


「ご、ごめん!!」


慌てて足を引く。

それでも視線は、どうしても離せなかった。


もう季節は、冬の入口だ。

吐く息がほんのり白くなり、指先が冷える。


なのに。


ヒロインとベルンハルトの周囲だけは、まるで春だった。

柔らかく、あたたかく、花が咲きそうな空気。


(……すごいな)


胸の奥が、じんわりとする。

幸せそうで、眩しくて。


「頑張って……!ヒロイン……!」


思わず、心の中でエールを送る。


「だから足……踏んでる……」

「ごめんってば!!」


幸せのお裾分けをもらったような気分で、胸が少し軽くなった。

勇気をもらえた、そんな感覚。


ありがとう。

心の中で、そっと呟く。


やがてヴィルと別れ、私は教室へ向かった。


「みなさーん!お待ちかねの!」


教室に入るなり、先生の声が響く。


「野外訓練です!」


ざわっ、と空気が揺れる。


「魔術科は……」


治癒魔術科一同。

ごくり、と喉が鳴る。


「参加しません」


――ほっ。


誰かが、思いきりガッツポーズをしていた。

わかる。私も内心、静かに合掌した。


「では各自、準備を怠らないように。はい、治癒理論第三から始めますよ~」


授業はいつも通り進み、終わりのベルが鳴ると教室は一気にざわついた。


掲示板の前に集まる私たち。


「今回は一緒に準備しようよ!」

「俺も混ざる!」

「前の遺書、使い回せるかな」

「新しく書け!!」


「書かせるんだ……」

「あはははは!」


軽口を叩き合いながら、笑い声が弾む。


「じゃあ、みんなで週末いこうね!」

「寮のホール待ち合わせな!」


「う、うん……」


返事をしながら、胸の奥がきゅっとした。


(……週末)


そっと窓の外を見る。

冬色の空の下、遠くで人影が動いている。


(昼食のとき……伝えたら、いいよね……)


野外訓練の準備。

班のみんなとの約束。


そして、もうひとつ。

胸の奥で、静かに温度を持ち続けている存在。


桃色きらきら。


その輝きは、今日も確かに、私の世界を照らしていた。




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