治療室の天井
目を開けた瞬間、視界いっぱいに広がったのは、白い天井だった。
(あっ……)
考えるより早く、状況を理解する。
「……2回目の治療室……」
どうやら、またやらかしたらしい。
自分の限界をちょっとだけ――ほんのちょっとだけ見誤った結果だ。
視線を動かすと、清潔なカーテン、並んだベッド、薬草の匂い。
学園の治療室特有の、安心するような、でもちょっと悔しい空気。
「起きた?」
先生の声がして、顔を向ける。
「頑張りすぎちゃったねー。でも安心して。ちゃんと戻ってきてるから」
そう言いながら、慣れた手つきでポーションを差し出してくる。
私はそれを受け取り、じっと見つめた。
「……クッ」
ポーションが、憎い。
「ポーションが憎い!!」
思わず叫ぶと、先生が吹き出した。
「はいはい。飲まないと、いつまでもここだよ?」
「今は精神的にもベッドで入院し続けたいです……」
本音がぽろっと漏れた。
身体よりも、心が追いついていない。
あの余韻が、まだ胸の奥に残っていて、うまく息ができない。
そんな時。
「……大丈夫か?」
低くて、少しかすれた声。
はっとして横を見ると、そこにいたのは――ヴィルだった。
顔色が、悪い。
明らかに私よりも、しんどそうだ。
「ヴィル……?」
反射的に、取り繕う。
「じ、授業中から体調が悪くて……」
それ以上は言えなかった。
何があったか、どうして倒れたか、説明する余裕もなかった。
ヴィルは一瞬、肩を揺らした。
息を飲む音がして、ほんの一拍。
「……そうか」
それだけ言って、彼は私の手を取った。
そのまま、自分の額に当てる。
ひやりとした感触。
しばらく、何も言わずにそうしていた。
治療室の静けさの中で、時計の音だけがやけに大きく聞こえる。
やがて、ぱっと手を離したヴィルは、いつもの顔に戻っていた。
「昼メシ、食べ損ねたな」
「今食べたら吐く自信ある」
「……それはキツいな。わかるよ」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
結局、ポーションは一気飲みした。
苦い。相変わらず。
その後、先生の判断で、私は合同訓練の“予備待機組”に回されることになった。
「アイナ君なら、いけると思ったんだが」
「先生、あの世にいけそうでした!」
「あははは!」
肩をぽんぽんと叩かれ、苦笑いで送り出される。
入学してから、初めて。
参加しない側として、合同訓練を眺める。
騎士科と治癒魔術科の全体的な動き。
前に出るタイミング、下がる癖、魔力を切る瞬間。
走り回っている時には見えなかったものが、やけにくっきり見える。
「あ……」
「ほら、あそこで間ができる」
「今の治癒、少し早いな」
自分でも驚くほど、冷静だった。
「それぞれ、皆ちがいますね」
「当たり前だろう?」
先生の即答に、思わず笑ってしまう。
――そうだ。
違うからこそ、補い合う。
違うからこそ、繋がる。
胸の奥に残る熱と、少しの痛みを抱えながら。
私は、椅子に座って、静かに戦場を見つめていた。




