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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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俺の知らないところで

おかしい。


胸の奥に、ずっと小さな棘が刺さったまま抜けない。

理由ははっきりしているのに、形にできない――そんな違和感だ。


俺は、幼馴染として、できる限りアイナの傍にいるようにしている。

朝の移動。授業の合間。訓練後。

声をかける距離も、歩く位置も、ずっと変えていない。


それなのに。


エルンスト。

あいつとアイナの距離だけが、少しずつ、確実に近づいている。


触れてはいない。

並んでいる時間も、俺より長いわけじゃない。


……なのに。


視線だ。


あいつらは、目を合わせることに躊躇がなくなっている。

一瞬。

ほんの一瞬でも、迷いなく絡める。


それは――慣れだ。

距離が縮んだ証拠だ。


(なんだよ、それ)


俺の腕の中に囲っているはずなのに。

幼馴染という立場は、誰にも奪えないはずなのに。


アイナは、何かを隠している。


話し方は変わらない。

笑い方も、返事の癖も同じだ。


それなのに、時々、俺の知らない温度が混じる。

ふっと緩む表情。

視線が一瞬、どこか遠くへ向かう仕草。


(……どこだ)


どこで、あいつは距離を詰めた?


俺がいない時間。

俺の視界の外。

俺の知らない場所で。


胸の奥が、じり、と焼ける。


気づけば、足が勝手に動いていた。


――気配を殺す。


騎士として叩き込まれた歩き方。

音を消し、影に紛れ、距離を保つ。


前を行くのは、アイナの背中。

寮へ向かう、いつもの帰り道。


足取りは軽い。

少しだけ、弾んでいる。


(……なんでだ)


今日は疲れていたはずだ。

魔術科の火力に振り回されて、重り二倍で、文句も言っていた。


なのに。


寮の扉が見える頃、アイナは迷いなく中へ入った。


……それだけだ。


立ち止まる。

耳を澄ます。


何も聞こえない。

足音も、声も、気配もない。


(気のせい、か)


そう思おうとした瞬間。


胸の奥の苛立ちが、消えない。


理由のない不安。

根拠のない焦り。


でも、これは――

気のせいで済ませていい感覚じゃない。


(……おかしい)


俺は、アイナを見失っていない。

それなのに、手のひらから零れ落ちていく感覚だけが残る。


舌打ちをひとつ、喉の奥で噛み殺す。


今日は、ここまでだ。


そう自分に言い聞かせ、俺は自分の寮へと歩き出した。


背中に残るのは、

モヤモヤとした苛立ちと、説明できない予感。


――俺の知らないところで、何かが進んでいる。


その確信だけが、

夜の空気よりも重く、胸に沈んでいた。



ヴィル視点

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