紅葉狩りならぬ魔物狩り
アイナの視線は、自然と一点に吸い寄せられていた。
――桃色と、銀色。
光を含んだ桃色の髪が、秋風に揺れるたび、きらりと淡く反射する。
そのすぐ隣、一定の距離を保ちながら並ぶ銀髪の青年。
近すぎず、遠すぎず。
触れそうで、触れない。
けれど、視線だけは確かに絡み合い、時折、ほんの一瞬だけ微笑みを交わしている。
(……この瞬間、永久保存したい……)
脳内でそっとスクリーンショットを切った、その直後。
「先生の話を聞け」
隣から、極めて現実的で冷静な声が飛んできた。
「……っ!」
はっとして前を見る。
いけない。完全に意識が飛んでいた。
ここは学園の外縁、紅葉が始まりかけた森の中。
今日は――
騎士科・治癒魔術科・魔術科の三科合同訓練の日だった。
初の三科合同。
魔術科がこれまで合流できなかった理由は、単純明快である。
攻撃魔術は、制御を誤れば周囲ごと吹き飛ばす。
下手をすれば――
死滅。
そう、死滅である。
治癒も間に合わないまま、天に召される可能性があるため、徹底的に基礎と制御を叩き込まれ、ようやくこの段階で合流となったのだ。
教官の声が、山中に響く。
「本来は二年進級後に行う訓練です。しかし、裏手の山脈にて魔物の異常発生が確認されました」
なるほど。
猫の手も借りたい、というやつだ。
実戦。
ほぼ実戦。
アイナはごくりと喉を鳴らした。
(……理解はした。したけど……)
そして次の瞬間。
「ヒロインとベルンハルトの魔術展開を、リアルで拝めるチャンスが来た……!」
目が輝いた。
「巻き添え食って死ぬなよ」
「死ぬに死ねない」
ヴィルの声が一段低くなる。
「ヒヨコ魔術師だぞ? 分かってんのか?」
「???」
そのやり取りの最中。
「はい、これ回してねー」
先生が何気ない調子で装備を差し出してきた。
――ずしっ。
「……え?」
手首と足首に伝わる、嫌というほど覚えのある重さ。
いや、違う。
(……重い)
確認するまでもなく分かった。
「なんということでしょう……!」
重りが、2倍。
前回より、明らかに 2 倍。
アイナの口元が、ひくりと引きつった。
(この……鬼畜ぅ……!)
心の中で全力ツッコミを入れるが、声には出さない。
出したら確実に「気合いが足りない」で済まされる。
ふと、気配を感じて顔を上げる。
少し離れた位置で、青い髪の騎士がこちらを見ていた。
エルンスト。
彼は何も言わない。
ただ、一瞬だけ眉を寄せ――
それからごく自然に、アイナの立ち位置を確認するように、自分の位置を微調整した。
前に出すぎない。
けれど、離れもしない。
(……守る気、満々だ)
胸の奥が、きゅっと締まる。
恋人ではない。
約束も、宣言もない。
それでも。
戦場に近づくほど、彼は必ず“そこ”にいる。
誰にも触れさせない距離で。
でも、逃げ場を塞ぐ距離ではない。
選ばせる距離。
ヴィルが、その様子を横目で捉えていた。
何も言わない。
けれど、空気がほんの少しだけ重くなる。
紅葉が始まりかけた森。
美しい景色とは裏腹に、張りつめた緊張が漂っていた。
これは、紅葉狩りではない。
――魔物狩りだ。




