アイナの日記
まだ、熱が引かない。
身体の熱じゃない。
胸の奥に、ずっと残っているもの。
エルンストと過ごす夜が、当たり前になりつつあるのに。
ベンチで並んで座って、他愛もない話をして、
最後に、頬や唇に触れる指先を受け取って。
それだけなのに。
それだけ、なのに。
胸が苦しい。
「……逢いたい」
ぽつりと漏れた声に、自分で驚く。
会ったばかりなのに。
明日も、きっと会えるのに。
それでも、恋しい。
「付き合ってくれ」
その言葉が、まだ一度も口にされていないことが、
ほんの少しだけ、胸を締めつける。
(……だめだ)
私は、学生。
エルンストも、立場がある。
騎士としての責任。
期待。
周囲の視線。
それを知っているから、言えない。
求めてはいけない。
それでも――
(大事に、してくれてるよね)
触れ方は、いつも優しい。
急がない。
奪わない。
一線を、きちんと守っている。
それがわかるからこそ、
余計に、欲しくなってしまう。
日記帳を閉じて、ぎゅっと抱き締める。
枕に顔を埋めると、
無意識に、そっと口付けてしまった。
(……エルンスト)
心臓が跳ねる。
彼は、知らないだろうな。
私が、エルンストに見立てた枕に、
こんなことをしているなんて。
「……もう……」
自分に呆れて、顔を覆う。
どうして、こんなに好きになってしまったんだろう。
どうして、触れられるだけで、こんなにも満たされてしまうんだろう。
夜は静かで、
胸の鼓動だけが、やけに大きい。
答えは、もうわかっているのに。
それを、まだ口に出す勇気はない。
アイナは、目を閉じた。
エルンストの声を思い出しながら。
あの指先の温度を、思い出しながら。
夜は、ゆっくりと更けていった。




