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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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ふたりの時間

いつもの日常を終え寮へヴィルと一緒に帰る。

「じゃ、また明日な」

「はーい!おやすみ!」


別れ、寮へ向かういつもの分かれ道を過ぎたところで、

アイナは一人きりになった。


夕暮れの空はすっかり夜へ向かう準備を整え、

学園の灯りがぽつりぽつりと点り始めている。


本当にいろいろなことがあった。


訓練。

噂。

エルンストの立場。

そして、自分の中で静かに固まりつつある感情。


「……独占欲を自覚してしまった……」


思わず、声に出てしまう。


胸の奥がきゅっと締め付けられるようで、でも否定できない。

誰にも奪われたくない。

誰にも触れてほしくない。


そんな自分に、少しだけ戸惑いながら、ぼんやりと歩いていた。


その時だった。


視界の先、回廊の影にあるベンチに、見覚えのある姿があった。


――あ。


自然と足が止まる。


辺境訓練の参加を話し合った、あのベンチ。

そして、そこに座っているのは、青い髪の騎士。


エルンストだった。


彼はアイナに気づくと、

穏やかな笑みを浮かべて立ち上がる。


「やぁ、アイナ」


その声を聞いた瞬間、考えるより先に体が動いた。

アイナは無意識のまま、彼の方へ駆け寄っていた。


距離が縮まる。

視線が絡む。


夜の空気が、少しだけ甘くなる。


エルンストが一瞬、はっとしたように表情を引き締める。


「……すまない。驚かせたな」


そして、少し間を置いてから。


「よかったら、少し話さないか?」


その言葉に、アイナの頬が緩む。


「うん!」


二人はベンチに並んで腰を下ろした。

肩が触れそうで、でも触れない距離。


今日あったことを、ぽつりぽつりと話し始める。


教官に認められたこと。

座学で眠くて魂が抜けかけたこと。

訓練場の空気、周囲の噂、ちょっとした出来事。


離れていた時間を、言葉で埋めるように。


エルンストは静かに耳を傾け、時折小さく笑う。

その表情を見るたび、胸の奥が温かくなる。


ふと、会話が途切れた。


エルンストが、じっとアイナを見つめている。


夜の灯りに照らされた青い瞳。

真剣で、でも優しい眼差し。


彼の手が、ゆっくりと伸びた。


指先が、アイナの頬に触れる。

そのまま、唇の端にそっと添えられる。


「~~~~っ」


言葉にならない声が喉から漏れた。

一気に熱が顔に集まるのが分かる。


エルンストは、くすっと小さく笑った。


「……また、明日もここで話さないか?」


逃げ場のないほど、穏やかな提案。


アイナは両手で熱くなった頬を押さえながら、こくんと頷いた。


「うん……」


二人は、それ以上触れ合わない。

けれど、視線だけは離れない。


「おやすみ」

「良い夢を」


甘い余韻を残したまま、それぞれの寮へ向かって歩き出す。


背中越しでも分かる。

この距離は、恋人ではない。

でも、ただの友人でも、もうない。


触れない境界線の上で、確かに何かが育っている。


アイナは胸に残る熱を抱えたまま、夜のベンチを後にした。



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