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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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桃色と銀色と青色

エルンストは、学園の門前で立ち止まった。

そのまま自分の家へ向かう馬車へと乗り継ぐためだ。


去り際、ふと振り返る。

視線が絡み、ほんの一瞬、世界が静止したように感じた。


エルンストは何も言わず、アイナの前に立つ。

指先がそっと、彼女の髪に触れた。

指に絡む柔らかさを確かめるように。


次の瞬間、額に――

いや、髪の生え際に、軽く口付けを落とす。


一瞬。

けれど、確かに残る熱。


エルンストは小さく微笑み、何事もなかったかのように馬車へ乗り込んだ。

振り返らずに。


その場に残されたアイナは、数秒、完全に固まっていた。


「……」


ヴィルはその様子を横目で見ていたが、何も言わない。

いつものように、肩を並べて歩き出す。


「行くぞ。寮だろ」


「……う、うん」


二人は、いつも通りの調子で、わちゃわちゃと会話を交わしながら寮へ向かった。

その空気は、確かに“日常”だった。


だが――

胸の奥に残った熱だけが、どうしても消えなかった。


翌朝。


学園の回廊で、アイナはふと足を止めた。


「あっ」


視線の先。

桃色の髪が揺れている。


ヒロイン――カレンと、銀色の髪のベルンハルトが並んで歩いていた。

距離は近すぎず、遠すぎず。

けれど、明らかに“揃えている”歩幅。


馬車は別々のようだ。

それでも、登校時間を合わせているのが一目でわかる。


「なんということでしょう!」


突然の叫びに、ヴィルが眉をひそめる。


「なんだよ」


「待ち合わせじゃないですか!」


「……それで?」


「逢えなかった時間を、まるで埋めあっているようだー!!」


アイナは両手を握りしめ、感極まったように呟く。


ヴィルは深いため息をついた。


「歩け。遅刻するぞ」


「はーい!」


そう言いながらも、アイナの視線は、しばらく桃色と銀色の背中を追っていた。


(……やっぱり、絵になるなぁ)


そして、無意識のうちに、別の色を思い浮かべてしまう。


青い髪。

静かな瞳。

去り際に残された、あの感触。


アイナは首を振った。


(だめだめ。今は学園。日常)


そう、自分に言い聞かせながら――

新しい学期の空気を、胸いっぱいに吸い込んだ。




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