表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/208

学園への道のり

幼馴染と馬車か…エルンストと馬車か…

(なんてこった!)


なんてことだろう。


気がついた時には、三人揃って同じ馬車に乗っていた。

静かに揺れる車内。規則正しい蹄の音。窓の外を流れていく、見慣れたはずの景色。


……空気が、重い。


右隣にはヴィル。

左斜め前にはエルンスト。


逃げ場がない。


「……」


アイナは正面を向いたまま、内心で頭を抱えていた。

どうしてこうなった。

なぜ私は、ひとりで馬車に乗るという最適解を選ばなかったのか。


「よく頑張ったな」


不意に、頭に手の感触が落ちてくる。

いつもの、慣れた動作。

幼い頃から何度もされてきた、あの撫で方。


ヴィルだった。


「……ありがとう」


反射的にそう返してしまう。

安心する距離。幼馴染の距離。

その一瞬、確かに胸が緩んだ。


――その瞬間だった。


空気が、冷えた。


温度が下がった、というより、鋭く張りつめた。

視線を向けなくても、わかる。


エルンストの気配が、変わった。


「学園に戻ったら」


低く、落ち着いた声が響く。


「これからは、共に昼食を取りたい」


はっきりとした声音。

疑問でも、遠慮でもない。

決定事項のような言い方。


「は、はい……」


返事と同時に、口元が緩んでしまった。

抑えようとしても無理だった。

嬉しい、という感情が、あまりにも素直に顔に出てしまう。


その瞬間。


今度は、ヴィルの空気が冷えた。


頭を撫でていた手が、止まる。

一瞬だけ、ほんの一瞬。

けれど、それだけで十分だった。


馬車の中に、見えない緊張が走る。


秋をすっ飛ばして、冬が来たみたいだ。

いや、もっと直接的で、ぞくりとする寒さ。


誰も、何も言わない。

ただ、三人分の呼吸だけが、微妙にずれている。


アイナは、ぎこちなく背筋を伸ばした。


(……無理……)


心の中で、深いため息をつく。


どうして私は、こんな修羅場みたいな馬車に乗っているのか。

どうして、左右に“大切な人”がいるのか。


窓の外を流れる道を見つめながら、アイナは小さく思った。


(……ひとりで馬車に乗ればよかった)


後悔は、いつも少し遅い。


馬車は静かに揺れながら、学園へ向かって進んでいく。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ