学園への道のり
幼馴染と馬車か…エルンストと馬車か…
(なんてこった!)
なんてことだろう。
気がついた時には、三人揃って同じ馬車に乗っていた。
静かに揺れる車内。規則正しい蹄の音。窓の外を流れていく、見慣れたはずの景色。
……空気が、重い。
右隣にはヴィル。
左斜め前にはエルンスト。
逃げ場がない。
「……」
アイナは正面を向いたまま、内心で頭を抱えていた。
どうしてこうなった。
なぜ私は、ひとりで馬車に乗るという最適解を選ばなかったのか。
「よく頑張ったな」
不意に、頭に手の感触が落ちてくる。
いつもの、慣れた動作。
幼い頃から何度もされてきた、あの撫で方。
ヴィルだった。
「……ありがとう」
反射的にそう返してしまう。
安心する距離。幼馴染の距離。
その一瞬、確かに胸が緩んだ。
――その瞬間だった。
空気が、冷えた。
温度が下がった、というより、鋭く張りつめた。
視線を向けなくても、わかる。
エルンストの気配が、変わった。
「学園に戻ったら」
低く、落ち着いた声が響く。
「これからは、共に昼食を取りたい」
はっきりとした声音。
疑問でも、遠慮でもない。
決定事項のような言い方。
「は、はい……」
返事と同時に、口元が緩んでしまった。
抑えようとしても無理だった。
嬉しい、という感情が、あまりにも素直に顔に出てしまう。
その瞬間。
今度は、ヴィルの空気が冷えた。
頭を撫でていた手が、止まる。
一瞬だけ、ほんの一瞬。
けれど、それだけで十分だった。
馬車の中に、見えない緊張が走る。
秋をすっ飛ばして、冬が来たみたいだ。
いや、もっと直接的で、ぞくりとする寒さ。
誰も、何も言わない。
ただ、三人分の呼吸だけが、微妙にずれている。
アイナは、ぎこちなく背筋を伸ばした。
(……無理……)
心の中で、深いため息をつく。
どうして私は、こんな修羅場みたいな馬車に乗っているのか。
どうして、左右に“大切な人”がいるのか。
窓の外を流れる道を見つめながら、アイナは小さく思った。
(……ひとりで馬車に乗ればよかった)
後悔は、いつも少し遅い。
馬車は静かに揺れながら、学園へ向かって進んでいく。




