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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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アイナの日記

夏季休暇おわり

湯殿から上がった瞬間、張り詰めていた糸が切れたように、体から力が抜けた。

濡れた髪を拭きながら部屋まで歩いただけなのに、視界がふわりと揺れる。


「……生きてる……」


思わず零れた言葉は、独り言というより、現実確認だった。


柔らかなベッドに身を沈める。

森の湿った土の感触も、血と鉄と魔力の混ざった匂いも、少しずつ遠のいていく。


文明。

静寂。

安全。


それらに包まれて、ようやく呼吸が深くなった。


……それなのに。


瞼を閉じると、消えないものがある。

雨上がりの空気。

すぐ隣を歩いていた気配。

離れたはずなのに、確かに絡んだ視線。


(明日……ちゃんと話せるかな)


胸の奥が、まだ熱を帯びている。

疲れ切っているはずなのに、眠気より先に浮かぶ名前。


――エルンスト。


それがもう答えなのだと、薄々わかっていながら、アイナは小さく息を吐いた。


「……寝る前に、日記を書かなきゃ」


訓練の日々は、振り返る余裕すらなかった。

書き留めなければ、すべてが夢だったように流れてしまいそうで。


机に向かい、日記帳を開く。

ペンを走らせ、最後のページまで書き終えたあと、ぎゅっと胸に抱き締める。


「エルンスト」

「エルンストが大好き」

「胸が苦しい」


文字にしてしまった途端、感情が溢れそうになる。

でも、それでよかった。


明日は、学園に戻る。

夏季休暇は――とても濃くて、重くて、忘れられない夏だった。


瞼が、ゆっくりと重くなる。

最後に思い浮かんだのは、あの薄い青の瞳。


エルンストの視線を思い出しながら、意識は静かに沈んでいった。



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