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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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56/208

あなたのもとへ

戦闘が、終わった。


それを告げたのは、勝鬨でも歓声でもなく、

指揮官の低く張り詰めた号令だった。


「――全隊、戦闘終了。周囲警戒を維持しつつ、事後処理に入れ」


その一言で、張りつめていた空気が、少しだけ緩む。

だが、完全には解けない。


血と土と、焼けた魔力の匂い。

倒れ伏す魔物の死骸。

担架に乗せられる騎士たち。


生きている。

――それだけが、確かな事実だった。


アイナは膝に手をつき、深く息を吐いた。


「……はぁ……」


指先が、まだ微かに震えている。

魔力を使い切った後特有の、内側が空っぽになる感覚。


それでも、立っていられる。

倒れずに、まだ治癒ができる。


「次、右腕裂傷!」

「意識はある、出血多い!」


呼ばれる声に、反射的に身体が動く。

考えるより先に、足が向く。


――平静を装え。


自分に言い聞かせながら、アイナは治癒陣を展開した。


光が、静かに広がる。

血が止まり、呼吸が整っていく。


その途中で。


ふっと、視線が上がった。


……いた。


少し離れた場所。

戦闘後の配置確認をしている騎士たちの向こう。


青い髪。

冷静な立ち姿。

それでも、どこか張りつめたままの空気。


――エルンスト。


一瞬だけ、目が合った。


ほんの、刹那。


けれど、それだけで胸の奥が、すっと落ち着く。


(……よかった)


平静を装っていたはずなのに、

その感情だけは、誤魔化せなかった。


怖かった。

見失った瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。


でも、今――

ここにいる。


アイナは、無意識のまま、指を動かしていた。


訓練で、何度も使った手信号。


二本指を自分に向けて、

それから、前へ。


「今から」

「あなたの元へ」

「かえります」


言葉にすれば、それだけの意味。


けれど、

アイナの中では、はっきりしていた。


――あなたの傍へ、かえります。


エルンストの動きが、止まった。


次の瞬間、彼の視線が、真っ直ぐにこちらを捉える。


そして。


迷いのない手信号が返ってきた。


「了解」

「こちらへ」

「来い」


短く、簡潔で、揺るぎがない。


胸が、どくん、と強く鳴った。


(……うん)


小さく頷き、アイナは最後の治癒を終える。


その背中に、まだ視線を感じた。


別の、重たい視線。

粘つくような、熱を帯びたもの。


――ヴィル。


気づかないふりをした。

今は、振り向かない。


振り向いてはいけない。


戦場では、すべてが露わになる。

恐怖も、欲も、独占欲も。


だからこそ。


アイナは、選ぶ。


戦闘終了の号令が、もう一度響いた。


「――全班、帰投準備に入れ!」


ざわめきが広がる中、

アイナは静かに、エルンストのいる方向へ歩き出した。


迷わず。

躊躇せず。


あなたの傍へ。


それが、今の私の帰る場所だから。


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