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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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魔の森 討伐戦

一言でいうと――壮絶だった。


学園に通うことを決めた理由を、何度も頭の中で反芻する。

治癒魔術師が、圧倒的に足りないから。

私も、誰かの役に立ちたかった。

守る側に立ちたいと思ったから。


でも――

目の前に広がる現実は、想像を遥かに超えていた。


これは訓練?

違う。

どう考えても、死線ぎりぎりを“あえて”踏ませにきている。


「治癒魔術を展開しろ!」

「首だけは飛ばすなよ!!」


怒号と指示が、嵐のように飛び交う。


学園での合同訓練。

騎士科と治癒魔術科だけの連携。

あれは――守られた環境だったのだと、今なら痛いほどわかる。


ここは実戦。

魔術師、弓兵、爆薬士、斥候。

役割の違う者たちが入り乱れる、本物の戦場。


「前方100! 火炎、入ります!」

ゴゴゴォォォォ――!!


炎が森を舐める。

魔物の咆哮と、木々の爆ぜる音。


「鎮火! 水氷魔術陣、展開!」

「右手! 矢を打ち込め! 放てぇ!!」

「手榴弾いきます!」

「退避!!」


ドッカーーーン!!


衝撃。

風圧。

焦げた匂いと、血の臭い。

赤いものが視界の端をよぎる。


吹き飛ばされる人。

担ぎ込まれてくる人。

呻き声。

叫び声。


アイナは、まだ学園一年生。

習いたての治癒魔術師だ。


必死だった。


魔術師や治癒魔術師へ迫る魔物を防ぐために、

盾となって前に立つ騎士たち。


その背中が、何度も崩れ落ちる。


治癒陣を展開する。

詠唱。

気合い。

魔力を流す。


「……治れ……っ!」


手が震える。

喉が渇く。

視界が狭くなる。


それでも、止まれない。


先生の言葉が、脳裏に重く響く。


――前線に立つ者が倒れた時、

最後に命を繋ぐのは誰か。

あなた方です。


……私たちだ。


学園での「気合いだー!!」は、遊びだった。

ここで求められるのは、覚悟だ。


間に合わなければ、死ぬ。

遅れれば、死ぬ。

躊躇すれば、死ぬ。


誰かが、確実に。


「アイナ! 左!」

「後ろ来てる!!」


声に引き戻される。

反射的に展開。

回復。

また次。


腕が重い。

足が動かない。

魔力が削れていく感覚が、はっきりわかる。


それでも。


「……まだ……!」


倒れた騎士の手が、微かに動く。

生きている。


――繋げた。


その瞬間だけ、胸の奥が熱くなる。

でも、次の瞬間には、また別の叫び声が飛ぶ。


現場を、完全になめていた。


訓練なんて言葉で片付けていいものじゃない。

これは、生きるか死ぬかの場所だ。


それでも。


それでも私は、ここに立っている。


治癒魔術師として。

命を繋ぐ者として。


歯を食いしばり、再び詠唱に集中する。


――逃げない。


心底、そう思った。




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