表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

49/208

辺境訓練の現実

翌朝から、空気が違っていた。


夜明け前の冷たい風が、肌を刺す。

城内の訓練場に集まる騎士団と訓練参加者たちの表情は、学園で見てきたそれとはまるで別物だった。


軽口はない。

笑顔もない。

あるのは、研ぎ澄まされた緊張と、静かな覚悟だけ。


――ここは、辺境伯領。


我が家の領地は、魔の森を抱え、巨大な湖を越えれば隣国と接し、さらに未踏破の天然ダンジョンまで点在している。

陸の魔物だけじゃない。水棲魔物、飛行系、群れで襲う獣型。


つまり。


戦場が、日常だ。


城下には冒険者ギルドがあり、武器屋、錬金術師、行商人、そして戦いに慣れた領民たちが暮らしている。

規模だけ見れば、王都に劣らない。


……なんて言ったら、父に怒られるかもしれないけど。


それだけ広いということは、それだけ守るものが多いということだ。

賊の討伐も、魔物の排除も、「特別な任務」じゃない。


当たり前の日常。


誰だ。

学園の外は平和だなんて思ったやつ。


現実は、こんなもんよ。


「現実はね……過酷なもんよ……」


ぼそっと呟いた私の横で、ヴィルが肩を竦めた。


「またなんか言ってる」


いつものやり取り。

なのに、今日はその声が少し低い。


今日は、実戦。


辺境訓練という名の、本物の戦場。


訓練場の壇上に、指揮官たちが上がる。

その中に――私は、自然と視線を向けていた。


エルンスト。


騎士たちの中でも、一段と目を引く立ち姿。

鎧に身を包み、無駄のない動きでそこに立つ姿は、学園で見ていた彼よりも、ずっと現実的で、ずっと遠く感じた。


紹介と挨拶が始まる。


彼の名が呼ばれた瞬間、周囲の空気がわずかに引き締まるのがわかる。

信頼されている。

それが、はっきりと伝わってくる。


その横で。


ヴィルの雰囲気が、がらりと変わった。


背筋が伸び、呼吸が浅くなり、纏う圧が重くなる。

いつもの幼馴染じゃない。

辺境伯領の騎士としての顔。


「……ヴィル?」


思わず声をかけると、彼は一瞬だけこちらを見た。

その瞳は、真剣で、少しだけ焦りを含んでいた。


「アイナ……俺から離れるなよ?」


低く、強い声。


冗談でも、軽口でもない。

命令に近い響き。


理由を聞こうとして、言葉が喉に詰まった。

今は、聞くべきじゃない。

そう直感が告げていた。


「……うん」


頷くことしか、できなかった。


私の視線は、再び壇上へ戻る。

エルンストは前を向いたまま、微動だにしない。


でも――


なぜか、ほんの一瞬。

こちらを見た気がした。


錯覚かもしれない。

それでも、胸の奥がきゅっと締まる。


これは、学園の延長じゃない。

恋を眺める場所でもない。


命を守る場所。

奪われないために、戦う場所。


そして私は、もう「モブ」でいるつもりはない。


エルンストの隣に立つ未来を、はっきりと意識してしまったから。


重たい空気の中、指揮官の号令が響く。


辺境訓練、開始。


――ここからが、本当の現実だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ