美しい君から目が離せない
この地に足を踏み入れた瞬間から、胸の奥が不思議と温かかった。
辺境伯家の歓待は、過剰なほど丁寧で、だが決して重くない。
「客人」としてではなく、「迎え入れる者」として扱われている――そんな錯覚すら覚える。
だが、その理由は、すぐに理解した。
ここにいる誰もが、アイナを心から愛している。
そして、その愛の延長線上に、俺が立たされているのだ。
城内を案内してくれた時の彼女。
少し緊張しながらも、誇らしげに歩く背中。
部屋の前で、決まりを守って立ち止まり、「おあずけです」と言ったあの声音。
……あれは、反則だった。
晩餐の席で聞いた言葉が、今も胸に残っている。
――まるで、俺に出逢うために生まれてきたみたいだ、と。
無邪気で、無自覚で。
それでも、確かに俺の心を強く揺さぶった言葉。
夜の庭園は、静かだった。
魔法灯の淡い光が足元を照らし、星空がその上に広がっている。
風が草花を揺らし、夜露の匂いが混じる。
その中で、彼女は立っていた。
淡い色のドレスに包まれた姿は、昼間の鍛えられた印象とはまるで違う。
柔らかく、しなやかで。
それでいて、芯の強さを隠しもしない。
……美しい。
ただ、その一言しか浮かばなかった。
理性が警鐘を鳴らした。
ここは彼女の家で、俺は客人で、距離を守るべきだと。
だが、視線が絡んだ瞬間、すべてが遅かった。
気づけば、彼女の瞳から目を離せなくなっていた。
吸い込まれるように近づき、無意識に手を取る。
「……エルンスト?」
呼ばれた名が、胸に落ちる。
その温度に、もう抗えなかった。
そっと、指先に口付ける。
確かめるように、触れるだけの、浅い口付け。
だが、そこに込めた想いは、熱く、重かった。
彼女の手を包む力が、思わず強くなる。
離したくない。
奪いたい。
守りたい。
すべてが、同時に溢れ出す。
――危うい。
そう理解しながらも、俺は視線を逸らせなかった。
夜の庭園で、星の下で。
美しい君から、もう、目が離せない。
これはもう、
ただの好意ではない。
確信だけが、静かに、深く、胸に根を張っていた。
エルンスト視点




