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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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辺境伯領の日常

休暇に入ってから三日目。


朝練がない――はずだった。


それなのに私は今、ネルケ辺境伯領の訓練所で、領地騎士団の鍛錬に混ざって走り込みをしている。

砂を踏み、呼吸を刻み、魔力を制御しながら前へ前へ。

太陽はまだ高くないのに、背中はすでに熱い。


「はぁ、はぁ……」


並走するヴィルは、相変わらず余裕の顔だ。


「アイナ。この走り込みが終わったら休憩しよう」


「は、はい……!」


どうしてこうなったのか――理由は単純だ。


筋肉は、正直だ。


鍛えなければ去っていく。休めば戻るわけでもない。

ましてや、野外訓練を経て知ってしまった現実がある。

学園の合同訓練は“入口”だった。ここは“現場”。

段が違う。


「学園と変わらねぇな」


ヴィルが笑う。


「私を励ませ! 褒めろ!」


「お前は凄い! 筋肉、輝いてるよ!」


……笑うがいい。気合いは大事だ。


走り込みの合間、周囲を見る。

騎士団、治癒魔術師団、魔術師団が、それぞれの役割で動いている。

連携の密度、判断の速さ、空気の張り。

ここでは、誰も“学生”扱いしない。


私はまだヒヨコだ。


「ヴィルはすごいね」


息を整えながら言うと、彼は肩をすくめた。


「惚れた?」


「あははは!」


走り終え、歩いてクールダウン。

呼吸を深く、一定に戻す。

日陰に入ると、用意された水を受け取った。


「はー! いのちの水ー! 美味しー!」


風が抜ける。草の匂い、土の匂い。

ここに帰ってきた実感が、じんわり胸に広がる。


ヴィルが隣に腰を下ろす。


「帰ってきた実感、今すごい」


「落ち着くよね」


彼は、少しだけ言葉を選ぶように間を置いてから、私を見た。


「本当に、帰ってきた感じがする」


「どんだけ! あはは」


笑って返した、その瞬間。


「アイナ」


父の声だ。


振り向くと、父は訓練所の端に立ち、こちらを手招きしていた。


「今回、他領から来た訓練参加者を紹介したい」


胸が、きゅっと鳴る。


ヴィルは、ほんの一瞬だけ表情を硬くした。理由は、たぶん同じ予感だ。


夏は、静かに終わる気がしなかった。

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