表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/208

俺の縄張り

ネルケ辺境伯領。

ここは、俺とアイナが育った場所だ。


朝霧がまだ低く漂う街道を、馬車がゆっくりと進んでいく。

見慣れた石畳。

風に混じる土と草の匂い。

遠くで聞こえる、訓練場の剣がぶつかる乾いた音。


――帰ってきた。


学園とは違う。

ここでは、アイナは「治癒魔術科の生徒」じゃない。

誰かに見つめられる存在でも、評価される存在でもない。


ただの、俺の幼馴染だ。


エルンストはいない。

あの視線も、あの声も、ここには届かない。


アイナは馬車の窓から身を乗り出し、懐かしそうに景色を見ている。

子供の頃と同じ仕草。

変わらない笑顔。


……変わったのは、俺の方だ。


学園で、あいつがどんな顔で誰を見ているのか。

誰の声に反応するのか。

俺は、もう知ってしまった。


胸の奥が、じわじわと熱を帯びる。


(ここでは……違う)


ここでは、俺が隣にいる。

俺が守る。

俺が手を伸ばせる距離に、アイナはいる。


誰にも邪魔されない。

誰にも奪わせない。


幼い頃、剣を握れなかった俺に、親父は言った。

「この領地は、お前の縄張りだ」


守れ、と。


――今なら、わかる。


守るというのは、

遠くから見ていることじゃない。

譲ることでもない。


腕の中に収めることだ。


アイナが、ふとこちらを向いて笑った。


「ねえ、ヴィル。やっぱりここ、落ち着くね」


ああ、と頷きながら、俺は視線を逸らす。

この顔を、長く見ていたら……抑えが利かなくなる。


(この夏で……)


心の中で、言葉が形になる。

まだ声にはしない。

けれど、確かに芽生えている。


この夏で、

アイナを――。


馬車は、ゆっくりとネルケ辺境伯領へ入っていった。



ヴィル視点

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ