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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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アイナの日記

気が付いたら、部屋のベッドに腰掛けていた。

窓の外はすっかり夜で、ランプの灯りが机の上を淡く照らしている。


……あれ?


確か、寮へ戻ってきて、扉を閉めて――

その先の記憶が、ふわっと抜け落ちている。


「……日記……」


反射的にそう呟いて、机に向かった。

この世界に来てから、日記は私の命綱だ。

感情が溢れすぎた日は、書かないと眠れない。


羽ペンを握る手が、少しだけ熱を帯びている。


(……落ち着け、私)


今日あったことを、順番に思い出す。


ヴィルと買い物に行ったこと。

気楽で、いつも通りで、楽しくて。

そのあと――


ベンチ。

夕暮れ。

風に揺れた木々の音。


エルンスト。


名前を思い浮かべただけで、胸の奥がきゅっと鳴る。


(……どうして、あんな言い方するの)


「君のそばへ……いや、辺境訓練に参加する」


あの一瞬の言い直し。

視線が絡んだまま、逃げ場を失った感覚。


髪に触れられた指先の温度。

耳にかけられた、その仕草。


(あれは……反則だよ……)


頬がじわっと熱くなる。

ペン先が、紙の上で止まった。


私はモブだ。

ヒロインじゃない。

イベントが起きる側じゃなく、眺める側。


なのに。


最近、世界の方が――

私を、巻き込みに来ている気がする。


(……エルンストは、現実の人なんだよね)


乙女ゲームの攻略対象とか、そういうのを知らない。

全部、本気で。

全部、現実として。


だからこそ、怖い。


期待してしまう自分が、怖い。


羽ペンを置いて、深呼吸をひとつ。


「……今日は、ここまで」


そう書き添えて、日記を閉じた。


布団に潜り込み、目を閉じる。

なのに、脳裏に浮かぶのは、あの低い声と、真剣な瞳。


(……明日、顔を見たら……どうしよう)


答えは出ないまま、心臓の音だけがやけに大きく響いていた。


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