背負えなかった幼馴染
野外訓練の帰り道、俺は何度も振り返っていた。
隊列の中で、アイナの姿を探して。
――危ない。
そう思った瞬間、彼女の足取りがふらついた。
今にも崩れ落ちそうで、反射的に駆け出す。
間に合え。
だが、俺より一歩早く――
エルンストが、アイナを抱き留めた。
「……背負います」
そう言った声は、落ち着いていた。
エルンストは俺の方を、見もしない。
「俺が背負う」
短い一言で決め、迷いなく彼女を背に乗せる。
アイナの腕が、彼の首に回った。
――あれは。
本来、俺の役目だったはずだ。
「ヴィル、この子を背負ってやって!」
A班の声に、現実へ引き戻される。
「ああ、わかった」
別の生徒を背負いながら、視線だけが勝手に逸れた。
遠ざかる背中。
エルンストの背に預けられた、アイナ。
胸の奥が、じくりと痛んだ。
……違う。
これは、ただの役割分担だ。
俺は騎士として、全体を見なきゃいけない。
そう、言い聞かせた。
――――――
治療室。
簡易ベッドに並ぶ、生徒たち。
その中で、アイナは静かに眠っていた。
額に滲む汗。
小さく動く唇。
「……外すのは……今でしょ? え? ダメ……?」
寝言だ。
思わず、息が漏れた。
「……はは」
どこまで必死なんだ、お前は。
夢の中でも、気合いだの判断だの。
ベッド脇に腰を下ろし、そっと髪に触れる。
指先に伝わる、柔らかさ。
撫でると、アイナは小さく身じろぎして――
ふわっと、笑った。
無意識の笑顔。
安心しきった表情。
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
好きだ。
守るべき幼馴染。
ずっと一緒にいた存在。
……それだけじゃ、もう足りない。
今日、背負えなかった。
一番大事な場面で、俺は一歩遅れた。
それが、こんなにも悔しいなんて。
髪から手を離し、深く息を吸う。
目を閉じると、さっきの光景が浮かぶ。
エルンストの背中。
そこに預けられた、アイナ。
――取られる。
そんな言葉が、胸の奥で音もなく形を成した。
違う。
まだ、何も決まってない。
だが。
俺は、もう知ってしまった。
幼馴染としての位置に、戻れない自分を。




