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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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帰路

満身創痍――

この言葉は、今の私たちのためにあるのだと思った。


身体は重く、思考は霞み、指先一つ動かすのにも意志が要る。

野外訓練の最終日を終え、私たちは学園へ向かって歩いていた……いや、正確には「戻されていた」。


またひとり、膝から崩れ落ちる。

すぐさま騎士科が駆け寄り、その身体を背負い上げる。


またひとり。

また、ひとり。


治癒魔術科も限界だった。

回復魔法は撃てても、自分自身を立たせる体力が、もう残っていない。


(ああ……これは……)


頭が、ぐらりと揺れた。


足元の感覚が曖昧になる。

重りが、鎖のように身体を引きずり落とす。


「アイナ――!」


誰かが名前を呼んだ気がした。

でも、振り向く余裕はなかった。


次の瞬間、視界が傾く。

地面に倒れるはずだった身体は、衝撃を受けることなく、何かに支えられた。


……揺れている。


一定のリズム。

上下する感覚。


(あ……)


鼻先に、ふわりと届く香り。


鉄と汗と土の匂いが混じる中で、

それだけは、はっきりとわかった。


(……この香り……)


胸の奥が、きゅっと鳴る。


「……好き……」


声に出ていたのか、自分でもわからない。

ただ、その香りに包まれているのが、心地よかった。


安心して、力を抜いていい場所。

そんな錯覚に、身を委ねてしまった。


意識が、ゆっくりと遠のいていく。


最後に感じたのは、

背中に回された腕の、確かな力だった。


――――――


次に目を開けた時、天井が白かった。


(……あれ)


瞬きを数回。

視界がはっきりしてくる。


ここは……学園の、治療室だ。


魔力を帯びたカーテン。

整然と並ぶベッド。


そして――


視界の端に映る、無数の人影。


ゆっくり首を動かすと、

そこには、治癒魔術科の仲間たちが、

それはもう、文字通り「死屍累々」に転がっていた。


包帯。

ギプス。

点滴。


ベッドの上、床、簡易寝台。


(……みんな……)


生きてる。

全員、生きて帰ってきた。


胸いっぱいに空気を吸い込んで、

私は、精一杯の声を出した。


「帰ってきたどー!!」


かすれているけれど、確かに響いた。


その声に反応して、

近くにいた人物が、ほっとしたように肩を落とす。


「……よかった。目が覚めたんだな」


その声。


顔を向けると、そこにはヴィルがいた。

鎧は外しているが、あちこちに擦り傷。

それでも、いつもの幼馴染の顔だった。


「……ヴィル」


声が出ただけで、少し泣きそうになる。


「無茶しやがって」


そう言いながらも、

彼の表情は、明らかに安堵していた。


「……生きてる?」


「ああ。全員な」


その一言で、胸の奥が、じわっと温かくなる。


野外訓練。

過酷で、恐ろしくて、二度とやりたくない。


でも。


確かに、私たちは――

生きて、帰ってきた。


重たい瞼を閉じながら、

私は、あの揺れと香りを、もう一度思い出していた。


(……ありがとう)


誰に向けた言葉かは、

まだ、ちゃんと整理できなかったけれど。


それでも、確かに。

心の奥で、そう呟いていた。




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