野外訓練四日目
本日は、快晴だった。
昨日までの湿り気が嘘のように消え、朝の空気は澄み切っている。雲ひとつない青空が広がり、陽光が森の奥まで差し込んでいた。
「助かる……」
「天候に感謝する気持ちが生まれた」
「めちゃくちゃわかる」
B班のあちこちから、しみじみとした声が漏れる。
雨が降らない。それだけで、どれほど身体が楽なのか、全員が身をもって理解していた。
とはいえ。
腕と足は、今日も死んでいる。
重りは相変わらずずっしりと存在感を主張し、歩くたびに筋肉が悲鳴を上げる。治癒魔術科の面々は、半分白目になりながらも、それでも動いていた。
他の班を見渡しても、疲労が溜まっているのは一目でわかる。
騎士科も例外ではない。剣を握る手の動きは鋭いままだが、肩や腰の動きに、確実に重さが滲んでいた。
それでも。
今日も順調だった。
魔物を倒し、倒し、また倒す。
奇襲にも冷静に対応し、陣形は崩れない。
騎士科が前線で吹き飛び、
治癒魔術科が後方から声を飛ばし、回復と指示を重ねる。
「今だ、下がれ!」
「回復展開! 次、右腕!」
「無理するな! 次は交代!」
息の合ったやり取りが、自然と流れるように続いていく。
――まるで、ゾンビ。
いや、違う。
これは、素晴らしい連携だ。
倒れても、立ち上がる。
削られても、前へ出る。
治癒魔術科の声が、騎士科を引き戻し、騎士科の背中が、治癒魔術科を守る。
夕陽の色が、森を包み込み始めた頃。
「今日さえ越えたら、明日は帰り道だ」
「頑張れ頑張れ、気合いだ!」
互いに声を掛け合い、気持ちを繋ぎ止めていた、その瞬間だった。
――ズン。
足元から、直接伝わってくる振動。
一瞬、空気が凍る。
引率の先生が、即座に声を張り上げた。
「退路、確保せよ!」
「即時、撤退開始!」
全班が一斉に反応する。
迷いはなかった。
森の奥から、何かが迫ってくる気配。
低く、重い地鳴りが連続して響く。
先に異変を察知したワイルドボアたちが、一直線にこちらの横を駆け抜けていく。
逃げている。必死に。
「……あれは」
「ジャイアントベア」
「複数個体を確認」
「五体です!!」
緊張が走る。
先生の声が、さらに鋭くなる。
「戦わずに回避優先だ!」
「指示を飛ばせ! 全員、生き残ることを最優先!」
命大事に。
それが、今の最優先事項だった。
指示に従い、確実に距離を取る。
騎士科が前後を固め、治癒魔術科が中央を支える。
走る。
走る。
走る。
その最中、アイナの脳裏をよぎった考えが、ひとつ。
(……重り)
今じゃない?
今、外すべき時じゃない?
腕と足に絡みつく重さが、状況に対して明らかに過剰だ。
逃げるための訓練だとしても、これは――
(いや、でも)
指示は出ていない。
勝手な判断は、混乱を招く。
歯を食いしばり、足を前へ出す。
生き残る。
全員で。
重りが、今ほど憎いと思った日はなかった。




