狂喜乱舞
ネルケ辺境伯夫妻は、同時に椅子から立ち上がっていた。
「…………今、なんと?」
夫――ネルケ辺境伯は、書斎の机に両手をつき、前のめりになっている。
妻メリアは、胸の前で手を組んだまま、ぴたりと動かない。
報告に来た侍女は、姿勢を正し、はっきりと言った。
「ご出産、無事終了いたしました。
母子ともに健康。
――男児でございます」
一拍。
次の瞬間。
「「初孫!!!!!」」
声が、城に響いた。
「やったぞメリア!!」
「聞きました!?あなた今聞きました!?」
「聞いたとも!!」
「男児だ!!」
二人は、ほぼ同時に拳を握りしめた。
(初孫である)
それもただの孫ではない。
あの娘の、子である。
――思い返せば。
幼い頃から、妙に丈夫だった。
泣いても転んでも、立ち上がるのが早い。
剣を持たせれば、振り回す。
重りをつけても、平然と走る。
「……嫁に行けるのかしら、この子」
夜中、何度そう呟いたかわからない。
筋肉を鍛えに鍛え、
がさつで、
怪我をしても笑って帰ってくる娘。
それでも、誇らしかった。
誰よりも強く、誰よりも優しい子だと知っていた。
だが。
「……高位貴族の婿を連れてくるとは」
ネルケ辺境伯は、深く、深く頷いた。
「しかも溺愛だ」
メリアは、思い出したように口元を押さえる。
「最初にご挨拶に来られた時の、あの目……」
「娘を見る目じゃなかったわ……」
「完全に、“自分の命より大事な存在を見る目”だった」
「ええ……」
それが今や。
「孫まで連れてきた!!!!」
再び、拳が上がる。
「当主は婿に譲る!!」
「ええ、譲りましょう!!」
「我らは――」
二人同時に、声を揃える。
「「孫に構い倒す!!!!」」
決意は固かった。
すでに頭の中では、
孫を抱いて城内を歩く自分たちの姿が完成している。
「名前は!?」
「まだです!!」
「抱っこは!?」
「もう少し安静を!!」
「では窓越しでもいい!!」
「それは……後ほど……」
侍女が必死に宥めるが、勢いは止まらない。
「ゆりかごは最高級で!!」
「城専用の玩具職人を呼びなさい!!」
「筋肉の発育も大事だ!!」
「あなた、それはもう少し後で!!」
そんなやり取りの最中、
ネルケ辺境伯は、ふと静かになった。
「……あの子、よく頑張ったな」
低く、柔らかな声。
メリアも、そっと頷く。
「ええ……」
「長期戦だったと聞きました」
二人の脳裏に浮かぶのは、
痛みに耐え、叫び、それでも前に進んだ娘の姿。
「……誇らしい」
その言葉には、何の誇張もなかった。
そして。
「婿殿もな」
ネルケ辺境伯は、口元を緩める。
「泣いていたそうだ」
「ふふ……でしょうね」
「あれほど溺愛していれば、当然だ」
メリアは、ふっと微笑んだ。
「……いい家族になるわ」
城の外では、初夏の風が吹いている。
花咲き乱れる庭は、いつもより明るく見えた。
「よし」
ネルケ辺境伯は、拳を軽く鳴らす。
「祝いだ」
「盛大にだ」
「ええ」
「逃がさないわよ、孫」
二人は、顔を見合わせて笑った。
ネルケ辺境伯夫妻




