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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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203/208

溺愛が静かすぎる時は要注意

ネルケ辺境伯城の庭は、花で溢れていた。

白、淡紅、金色に近い黄色。

風が吹くたび、香りが重なって、初夏の気配を運んでくる。


「はー……!」


思わず、深呼吸。

胸いっぱいに空気を吸い込むと、身体の芯まで気持ちいい。


もうすぐ夏。

そう思うだけで、なんだか心まで軽くなる。


無事に卒業して。

夫と一緒に暮らして。

朝も夜も、名前を呼ばれて、触れられて。


……毎日、愛されている。


愛されて……。


「……あれ?」


首を傾げる。


最近。

ここ最近。


エルンが、やけによそよそしい。


「どうしたの?」

「いや……なんでもない」


そう言って、笑う。

いつも通りの顔。

優しい声。


なのに――距離がある。


夜の護身術も……。


「……あれ!?」


気づいた瞬間、背筋が冷えた。


もう一週間。

一週間も、していない。


目が合えば、じっと見つめてくる。

でも、そのあと必ず、何かを堪えるように視線を逸らす。

理由をつけて、離れていく。


「……なんということでしょう……」


胸の奥が、ひやりとする。


もしかして。

まさか。


浮気?

それとも……飽きた?


私、なにかした?

筋肉つけすぎた?

プロテイン飲みすぎた?


城の中も、妙だった。


メイドに相談すると、

「……そ、そうですか……」

と、目を泳がせる。


明らかに、気まずい。


城全体が――

私を除いて、そわそわ、ざわざわ。


特に両親。


父はやたらと咳払いが多いし、

母は意味深に微笑むし。


訓練所に行けば、

騎士も魔術師も治癒魔術師も変成師団も、

いつも通り……なのに。


視線が、ニヤニヤしている。


「……え?なに?」


「筋肉、今日も輝かせてるか?」

ヴィルが声をかけてくる。


「……活き活きしてる」

「魚かよ」


相変わらずの幼馴染。


頭を撫でられて、少し安心する。


そこへ、ヴィルを追いかけてきた女の子が声をかける。

「ヴィル、治癒する?」

「ああ。頼む」


自然に並んで歩いていく二人。


……うん。

ダメダメ。

変なこと考えちゃダメ。


その夜。


「……明日。大切な話がある」


心臓が跳ねた。


「今日は……一緒には寝れない」


「……ガーン……」


「許してくれ」


拳を握りしめるエルン。

震える肩。


――これは黒だ!!!


ひとりで眠るベッドは、驚くほど冷たい。

世界から切り離されたみたいで、

胸が、きゅっと縮こまった。


翌日。


朝から、あれよあれよと支度をさせられて。

髪を整えられ、衣装を着せられ。


気づけば――

神殿。


バージンロードの手前。


「……え?」


戸惑う私に、前方から視線が向けられる。


エルンスト。


視線が、まっすぐこちらを捉える。


胸が、強く跳ねる。


(……っ)


私の瞳を捉えた

彼の指が、さりげなく動いた。


手信号。


エルンストは、ほんの一瞬だけ口角を緩めると、次の動作に移った。


ベルトに軽く触れ、

そのまま、地面を指す。


そして、指先で、小さく円を描く。


――場所。


(……あ)


胸の奥に、熱が走る。


――手信号。


あの日。

訓練の合間、言葉にできない時に交わした合図。


頷く。


(目標地点……)


ベルトに触れ、地面を指し、指で描かれた円。


(……円の中)


一歩。

また一歩。


歩き出した瞬間、理解した。


両家の顔ぶれ。

ネルケ辺境伯夫妻。

トゥルペ家。

学園の仲間たち。


治癒魔術科B班の皆が、

満面の笑みで手を振っている。


――あ、これ。サプライズ結婚式。



神官の言葉は、正直、あまり耳に入らなかった。


ただ――

目の前の人が、格好良すぎた。


「誓いの口付けを」


唇が、重なる。


その瞬間。


視界が、弾けた。


「目が痛いッッッ!!」


光。


金とも銀ともつかない粒子が、空から降る。


ざわめく参列者。

神官の驚愕。


「二柱の……祝福により……!」


頭の奥で、テンションの高い声。


『祝福ただいま最大値で行っておりまーす!』

『幸あれ幸あれ筋肉気合いあれー!』


(なんということでしょう!!)


エルンが、ぼそりと呟く。

「……Two deities」


そして、笑った。



その夜。


抱き締める力に容赦がないエルンストの腕へ

「ぎ、ギブアップ」の合図を繰り出していた。


ふっと息を吹きかけられ

耳元に落ちてきた熱い吐息、そして熱を孕んだ低い声。


「……めちゃくちゃ我慢した」


私は一週間ぶりの戦場に

放り込まれることになった。


「なんということでしょう!」

「ククク……ははは!」


溺愛は、一生涯。


どうやら私は、

とんでもない夫を選んでしまったらしい。


――でも。


世界一、幸せだ。



少し遅れたふたりの結婚式でした。

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