BGMは突然ふってくる。
治癒魔術師として、しっかり勉強する。
辺境を守ってきたお父様たち、騎士隊や領民の役に立ちたい。
そのためにここへ来たのだ。
胸の奥で小さく決意を固めながら、私は王立学園の正門を見上げた。
石造りのアーチは想像以上に大きく、朝の光を反射している。
深呼吸ひとつ。
そして、一歩。
――その瞬間だった。
♪~~~~~~♪
聞こえた。
はっきりと、ありえないほど鮮明に。
「……え?」
次の瞬間、視界がぐらりと揺れた。
音楽。軽やかで、明るくて、やたらと懐かしい旋律。
「うっそぉ……なんでぇ……?」
頭を押さえた私の横から、聞き慣れた声が飛んでくる。
「よっ! アイナ、おはよう!
どうした? 大丈夫か?」
幼馴染のヴィルだった。
いつもの軽い調子だが、私の様子がおかしいと気づいたのか、途中で足を止めてこちらを覗き込む。
「待って! 今、私は大変混乱してます!」
「は? あ、ああ……」
ヴィルは一歩引き、気まずそうにしながらも、私の隣に立ってくれた。
その視線が「本当に大丈夫か?」と問いかけてくる。
でも、それどころじゃない。
(え、待って、待って……)
脳内で、何かが一気に噛み合っていく。
音楽。学園。正門。
(これ……)
「凄い……凄いよ……花咲くマジカル学園……」
ぼそぼそと呟く私に、ヴィルが完全に引いた顔をした。
「……アイナ?」
「……」
沈黙ののち。
「まってぇー!!」
思わず叫んでいた。
「モブじゃーん!!
盛大に私モブじゃーーーーーん!!!」
声が裏返った。
自覚した瞬間の絶望感がすごい。
ヴィルは本気で怯えた。
一歩、後ずさる。
「え、なに、なにそのテンション……
大丈夫か? 熱ある?」
「熱じゃない! 現実が重いの!!」
そうしているうちに、入学式の案内が始まった。
視線の先、集まる新入生の中に――
(あ……)
いた。
キラキラしている。
存在そのものが発光しているみたいな人たち。
(攻略対象キャラ……)
直視できない。
眩しすぎる。
生命力が違う。
(無理だわ……)
私はそっと視線を逸らした。
(眺めてる側で正解。
うん、モブで生きよう)
ヴィルが首を傾げているのを横目に、私はひとり深く頷いた。
こうして、
モブでいたはずの私の学園生活は――
盛大に、音楽付きで始まってしまったのだった。




