モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで
世界の外側。
物語の縁。
時間も因果も、ページをめくる音すら届かない場所。
眩しい。
やたらと眩しい。
それは光そのものというより、
「好き勝手に楽しんでいる存在が二柱もいる」せいだった。
『見た? あの子、完全にモブ辞めたよね』
『辞めたどころか、物語をねじ伏せて主役になったね』
ふたりは、足をぶらぶらさせながら下界を覗き込む。
そこには――
護身術という名のじゃれ合いをし、
朝は戦場、昼は訓練、夜は溺愛、
そして「もう逃がさない」が日常語になった二人の姿。
『いやー……あれは溺愛だね』
『溺愛だね。過剰供給だね』
『世界の強制力、だいぶ頑張ったのにさ』
『ヒロイン補正も、イベント補正も、ルート修正も、
全部「呼ばれたから戻る」で上書きされた』
ふたりは肩をすくめる。
『名前を呼ばれるたびに正気に戻る男、反則じゃない?』
『反則だね。でも合法』
『合法なの!?』
『だって「選ばれてる」から』
光の片方が、楽しそうに笑う。
『それにさ、あの子――
怖がって、泣いて、逃げようとして、
それでも「好き」って言ったんだよ』
『モブなのに』
『モブだから、だよ』
一瞬、ふたりの声が柔らかくなる。
『世界のためじゃなくて、
誰かのルートのためでもなくて、
ただ「一人を好きになった」』
『それで世界が揺れた』
『うん。最高』
下界では、
彼が彼女を抱き寄せ、
彼女が文句を言いながらも笑っている。
逃げない。
奪われない。
置いていかれない。
ただ、並んでいる。
『ねえ、ゴールどうする?』
『卒業式』
『結婚式』
『その先も見たいけど?』
『そこからは観客席だね』
『あー、確かに』
二柱は顔を見合わせて、にやりと笑った。
『――モブでいたはずの彼女が』
『――ただひとりに溺愛されるまで』
『いい物語だったね』
『うん。ごちそうさま』
光が、ふっと遠ざかる。
ページが閉じる音はしない。
けれど確かに、ここで一区切り。
物語は終わる。
溺愛は、終わらない。
――完。




