アイナの日記
――溺愛されている日々を綴る
今日は、久しぶりに日記を書く気分になった。
というか、書かないと頭が追いつかない。
最近の私は――
どう考えても、溺愛されすぎている。
朝、目が覚めると、エルンストがいる。
起きている。
私より先に。
「おはよう、アイナ」
そう言って、当たり前みたいに頬に口付けられる。
最初はびっくりしていたけれど、最近はもう、心臓が跳ねる前に諦めが来る。
逃げようとすると、抱き寄せられる。
「護身術だ」と言われる。
絶対違う。
食事も一緒。
訓練も一緒。
気づけば、移動も一緒。
「一人で行けるよ?」と言ったら、
「行けるのと、行かせるかは別だ」と真顔で返された。
……理屈が強い。
でも、不思議と嫌じゃない。
むしろ、安心する。
学園での生活は相変わらず過酷で、
治癒魔術科は今日も元気に吐き気と戦っているし、
教官は相変わらず「生きてるな!」と満面の笑みだし、
B班は「これ卒業できる?」って顔をしながら走っている。
それでも。
エルンストがいると、
世界の輪郭がはっきりする。
怖いことも、不安なことも、
全部ゼロになるわけじゃない。
でも――
「俺がいるだろ」と言われると、
本当に、立てる。
最近、ふと思う。
私は、乙女ゲームのモブだったはずだ。
ヒロインじゃない。
選ばれる側でもない。
なのに今、
世界でいちばん真剣な目で見つめられて、
いちばん近くで守られて、
いちばん深く、欲しがられている。
二柱が空から笑ってる気がする。
『ほらね』
『モブでも、幸せになれるでしょ』
……うるさい。
でも、ありがとう。
エルンストは今日も言った。
「もう逃がさない」
それを、冗談じゃなく、日常語みたいに。
私は今日も返す。
「はいはい」
軽く。
でも、心から。
だって――
もう、逃げる気なんて、最初からない。
溺愛されている日々は、
少し騒がしくて、
少し過剰で、
でも、とてもあたたかい。
この物語が、いつ終わるかは分からない。
卒業も、結婚も、
まだ先の話かもしれない。
でも。
モブでいたはずの私が、
ただひとりに溺愛されるまで。
――ここまでは、間違いなく本当だ。
今日の日記は、ここまで。




