私室籠城戦
私たちは学園を休んでいる。
気づけば、もう三日目だった。
野外訓練が五日分あるなら、
この私室籠城戦も、最低あと二日は続く計算になる。
……計算、合ってるよね?
薄いカーテン越しに、朝の光が差し込んでいた。
柔らかくて、あたたかくて、現実に引き戻してくる光。
——なのに。
「……っ」
目を開けた瞬間、視界いっぱいに広がる青。
正確には、エルンストの髪。
近い。
近すぎる。
「起きたな」
低く、落ち着いた声。
吐息が頬に触れて、思わず息を詰める。
「……近……っ!」
反射的に身を引こうとしたけれど、
腰に回された腕が、当然のようにそれを阻んだ。
ぎゅ、と力がこもる。
「逃げるな。朝だぞ」
「朝だからこそ離してほしいんだけど!?」
「無理だ」
即答だった。
一ミリの迷いもない。
布団の中、肌と肌の距離はほぼゼロ。
エルンストは完全に目が覚めている。
というか——たぶん、私が起きる前からこの体勢だった。
「……おはようのキスは?」
「夫婦未満です!!」
「予定では、もう未満じゃない」
「言い方が強い!!」
抗議する間にも、
額、こめかみ、頬、唇の端へと
順番に落ちてくるキス。
軽い。
でも、確実。
逃げ道を一つずつ、丁寧に潰してくる。
「……呼吸していい?」
「俺の許可がいる」
「横暴!!」
小さく笑う気配。
胸元に顔を埋められて、深く息を吸われる。
「……この匂い、朝でも反則だな」
「ちょっと!吸わないで!」
「無理だ。もう俺のだ」
あまりにも自然に落ちた言葉。
疑いも、躊躇いもない声音。
胸の奥が、きゅっと縮む。
「……ねぇ、エルン」
「ん?」
「ほんとに……逃がさない気、だよね」
一瞬の沈黙。
それから、抱く腕に少しだけ力が入った。
「逃がす理由が、一つもない」
静かで、揺るがない声。
「朝も、昼も、夜も。
食事も、訓練も、キスも——護身術の続きも」
「続き、重要なんだ……」
「重要だ」
また即答。
「全部、俺のそばでやれ」
額を合わせ、視線が絡む。
近すぎて、逃げ場がない。
「……もう逃がさない」
低く、日常語みたいに落ちたその言葉に、
私は観念したように、小さく笑った。
「……はいはい」
「返事が軽い」
「だって、もう捕まってるし」
その言葉に、エルンストは満足そうに微笑む。
「そうだな。じゃあ、朝食の前に——」
「まさか」
「軽い護身術だ」
「絶対、軽くないやつ!!」
布団の中で転がされながら、
朝は今日も、平和で、騒がしくて。
でも。
ここは確かに、
甘くて安全な戦場だった。




