花咲き乱れるガボゼ
私とエルンストは、食堂で包んでもらった昼食を手に、中庭の奥へ向かった。
蔓に囲まれたガボゼは、学園の中でも特に静かで、花が咲き乱れ、風が抜ける穏やかな場所だ。
ここなら、誰にも邪魔されずに――
そう思っていた。
ガボゼの入口が見えた、その瞬間。
エルンストの足取りが、ほんの一拍だけ止まった。
「……あ」
視線の先。
花の向こうに、二人の姿があった。
桃色の髪が陽を受けて揺れ、
その隣に、銀色の青年。
カレンと、ベルンハルト。
「久しぶり!」
エルンストが、思いのほか明るい声で言った。
胸の奥が、きゅっと縮む。
「久しぶり。仲良くやってそうで、よかったね」
カレンの声は柔らかく、自然だった。
それが余計に、胸に刺さる。
エルンストは笑って、私の方を見る。
「よかったら、一緒に食べないか?」
――え?
一瞬、言葉が理解できなかった。
ふたりで、って。
さっきまで、確かに。
「……う、うん」
喉の奥から、かすれた声が出た。
断れなかった。
笑顔のカレンと、穏やかなベルンハルトを前にして。
四人で腰を下ろす。
椅子を引くために、エルンストと私が後ろを通った、その時。
風が吹いた。
ふわりと舞い上がった桃色の髪が、
エルンストの腕のカフスボタンに絡まった。
「あ……」
カレンが小さく声を上げ、外そうとして身を乗り出した瞬間、
足元が、ぐらりと揺れた。
――ガシッ。
エルンストが、反射的に腕を伸ばす。
支えただけ。
それだけなのに。
静寂が、落ちた。
心臓の音が、やけに大きく響く。
視界の端で、ベルンハルトが立ち上がるのが見えた。
きらり、と光るものが落ちる。
……涙?
「……すまない」
ベルンハルトの声は、低く静かだった。
「風で……目に、ゴミが入っただけだ」
そう言って、目元を押さえる。
でも私は、見てしまった。
確かに、頬を伝って落ちた一滴を。
「ベルンハルト……」
カレンが一歩近づこうとして、
その時。
「……っ」
カレンの髪は、まだ絡まったままだった。
「動かないで」
エルンストの声が、近い。
指先が、慎重に髪に触れる。
胸が、ざわざわと騒ぐ。
この空気。
この距離。
耐えられなかった。
「……ごめんなさい」
自分の声が、遠く聞こえる。
胸の奥が、ぎゅうっと締めつけられて、
息が、浅くなる。
「私……ちょっと、体調が……」
言い終わる前に、踵を返していた。
走る。
花の間を抜けて、風を切って。
背後から、名前を呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど、
振り返れなかった。
――見られない。
追いかけてほしい。
でも、見られたくない。
矛盾した感情が、胸を引き裂く。
背後で、カレンの声が響いた。
「髪を、切って!!」
はっとする気配。
一瞬の静止。
そして、足音。
――追いかけて来てくれたの?
それだけで、涙が滲んだ。
こんなはずじゃなかったのに……




