幼馴染にちゃんと伝える
朝の空気は、まだ少しひんやりしていて、石畳に落ちる光も柔らかい。
寮から教室へ向かう道を、私はヴィルと並んで歩いていた。
いつもと同じ距離。
いつもと同じ歩幅。
でも、胸の奥だけが、落ち着かなかった。
――今日は、ちゃんと言おう。
ごまかさない。
曖昧にしない。
そう決めて、私は一度、深く息を吸った。
「あのねっ」
少し声が裏返った。
自分でも分かるくらい、緊張している。
ヴィルが横目で私を見る。
歩調は変えないまま、いつもの調子で。
「どうした?」
その何気ない一言が、余計に胸に刺さる。
優しいから。
昔から、こうだったから。
「今日は、ヴィルと昼食はとれない」
一瞬だけ、沈黙。
足音が、やけに大きく聞こえた。
「治癒魔術科B班?」
いつもの流れなら、そうだ。
だからこそ、私は首を横に振った。
「ううん」
短く、でもはっきり。
ヴィルの視線が、少しだけ鋭くなる。
でも、責めるようなものじゃない。
「ふぅん。そっか…わかった」
拍子抜けするほど、あっさりした声。
それが逆に、胸にきた。
「ありがとう」
小さく言うと、ヴィルは鼻で笑った。
「礼を言われるようなことじゃねぇだろ」
少し間があって、
それから、ぽつりと続く。
「じゃあ、次は俺とふたりで食べろよ」
その言葉に、足が止まりそうになる。
振り返ると、ヴィルは前を向いたまま。
表情は見えない。
でも、声はいつもより低くて、静かだった。
「わかったな?」
確認するみたいに、念を押す声音。
私は、ぎゅっと指先を握ってから、頷いた。
「……うん」
嘘じゃない。
逃げでもない。
ちゃんと伝えた。
ちゃんと受け取ってもらった。
それだけで、胸の奥に溜まっていた重たいものが、少しだけ軽くなる。
幼馴染だからこそ。
大切だからこそ。
言わなきゃいけないことは、言う。
石畳の先に、校舎が見えてくる。
朝の鐘が、遠くで鳴った。




