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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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君を見つける瞳

窓の外を、ぼんやりと眺めていた。

中庭を横切る学生たち。回廊を行き交うローブの色。

風に揺れる木々の葉が、午後の光を受けてきらきらと反射している。


……いつもなら。


こうして外を見ていると、無意識に探すのはヴィルだった。

背が高くて、赤茶の髪で、歩き方に癖があって。

訓練帰りなら、遠目でもすぐにわかる。


なのに最近は。


(……あ)


自分でも驚くほど自然に、別の人影を見つけてしまう。


青い髪。

すっと伸びた背筋。

無駄のない所作。


(エルンストだ)


見つけた瞬間、胸の奥がきゅっと鳴る。

理由は、まだよくわからない。


(さすがだわ……本当に、かっこいい)


騎士科の訓練を終えて戻るところなのか、少し汗を含んだ髪が光を受けている。

その姿を目で追っている自分に気づいて、はっとした。


――いけない、いけない。

私はモブ。

私はモブ令嬢。

恋愛イベントは観察する側。


そう言い聞かせて、視線を逸らす。


けれど。


回廊で、すれ違った時。


ほんの一瞬、顔を上げただけだった。

それなのに。


目が、合った。


(……っ)


心臓が、変な跳ね方をする。


すぐに逸らそうとしたのに、間に合わなかった。

エルンストの瞳が、確かにこちらを捉えていた。


(……あ、いい香りした)


すれ違いざま、ふわりと届いた匂い。

革と金属と、石鹸みたいな、清潔な香り。


なんでこんなことまで意識してるの!?

内心で慌てながら、足早にその場を離れた。



合同訓練の合間。


治癒魔術科が待機している端の方で、

魔力調整をしながら周囲を確認していると。


(……あっ)


また、視界に入る。


剣を構えるエルンスト。

額にうっすら汗を浮かべながら、相手の動きを冷静に見据えている。


(あっ、エルンストだ)


名前を思い浮かべただけで、胸の奥が少し熱くなる。


その時だった。


エルンストが、こちらを向いた。


真正面から、視線が重なる。


(……瞳……)


あんな色をしていたんだ。


薄い青。

澄んでいて、深くて。

氷のようなのに、不思議と冷たさを感じない。


(……綺麗な色してるな……)


次の瞬間。


エルンストが、ふっと口元を緩めた。


ニコッ。


それは、ほんの小さな笑みだった。

戦場では見せないであろう、柔らかい表情。


胸の奥が、きゅっと持ち上がる。


(……っ)


胸の奥が、じんわりと温かくなる。


気づいたら、私も笑っていた。

無意識だった。

止める暇なんてなかった。


すると、エルンストが軽く手を挙げた。


(……え?)


誰に?

周囲を見渡す。


……方角的に。

どう考えても。


(こっち……?)


彼は、少し首を傾げる。

その仕草が、思った以上に自然で。


(……かわいいな)


――いやいやいや!!

何を考えてるの私!!


さらに、エルンストは右手の二本指を目元に当て、

そのまま、こちらへ向けた。


(……あ)


それ、知ってる。


訓練でやった。

騎士科と治癒魔術科で共有している、簡易の手信号。


「目を離すな」

「見ている」

「こちらを確認しろ」


つまり。


(……え、私!?)


声に出す前に、身体が反応してしまった。


ガタッ!


盛大な音を立てて、椅子から立ち上がる。


周囲の視線が、一斉に集まる。


先生が、わざとらしく咳払いをした。


「ゴホン……お手洗いかな?」


「わ、わ、わ、わ、わ……そうです!!」


自分でも何を言っているかわからないまま、

アイナは勢いよく全力でその場を飛び出した。


走る。

とにかく走る。


目的地は――女子トイレ。


回廊を駆け抜け、扉を開け、個室に駆け込む。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


心臓が、うるさい。

呼吸が整わない。


背中を預けて、ずるりと座り込んだ。


「……え?」


息を整えながら、頭を抱える。


「なんで……?」


頬が、熱い。

耳まで赤い気がする。


そうだ。

当たり前のことなのに、今さら気づいてしまった。


目が合う、ということは。


――相手も、こちらを見ているということだ。


それを、私はずっと、

「自分が見ているだけ」だと思っていた。


(……見られてた、の?)


そう考えた瞬間、

胸の奥が、また小さく跳ねた。


アイナは、深く息を吸い込む。


(……落ち着こう)


私はモブ。

私は観察者。

これはただの、偶然。


そう、言い聞かせながら。


けれど。


その事実が、今になって、じわじわと胸に広がっていった。



その日の午後。


窓の外を見るたびに、

無意識に青い髪を探してしまう自分がいることを、

まだ、認める勇気はなかった。


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