治癒魔術科 二年生
春の光が、学園の回廊に満ちていた。
冬の厳しさを乗り越えた石畳はどこか明るく、足音さえ軽い。
治癒魔術科の教室に一歩踏み入れた瞬間、懐かしい空気に胸がゆるむ。
「アイナ!!」
「久しぶり!!」
「生きてた!?」
一斉に声が飛んできて、思わず笑った。
「これ、お土産」
「温泉のやつだよね?」
「あっという間に新学期だなぁ」
机を囲んで、わちゃわちゃと始まる再会の儀式。
三ヶ月という時間は長かったはずなのに、不思議と間は空いていない。
「……あれ?」
ふと、誰かの視線が私の顔をじっと見つめている。
「アイナ、なんか……」
「凄い色っぽくなってない?」
一瞬、思考が止まった。
「え?」
「顔つきもだけど、雰囲気?」
「なんかこう……余裕?」
言われてみれば、周囲の視線が妙に集まっている。
クラスメイトだけじゃない。
通りすがりの他科の生徒まで、ちらちらとこちらを見ていく。
「ふふーん!」
私は胸を張った。
「贅肉を滅ぼすために、めちゃくちゃ頑張ったからね!」
一斉にどよめくB班。
「やっぱり!」
「冬の間、何があったの……」
「戦争?」
「籠城戦みたいなもんだったよ」
即答すると、みんなが深く頷いた。
相変わらずだ、と安心したような笑いが広がる。
でも――。
一人が、恐る恐る口を開いた。
「……で」
「彼氏……できたの?」
括弧つきの視線が、はっきりと刺さる。
(やっとエルンスト君と?)
そんな空気が、教室に満ちた。
その瞬間。
私の瞳から、光が消えた。
「……」
言葉が、出てこない。
笑顔も、張りついたまま動かない。
沈黙。
そして、察しのいいB班は悟った。
「あ、うん」
「そういう感じね」
「聞いちゃダメなやつ」
誰かが、そっと話題を切り替える。
「そ、そういえば次の合同訓練さ!」
「新しい教官来るらしいよ!」
一気に空気が動き出す。
私は内心で、そっと天を仰いだ。
――新学期。
何も終わっていないし、
何も解決していない。
でも。
確実に、世界は動き出している。
そんな予感だけが、春の光の中で、静かに胸に残っていた。




