魚料理と桃色。
やっとだ。
今週も、生き延びた。
治癒魔術科の現実は、想像していた「癒し」なんて生ぬるいものじゃない。
筋肉は悲鳴を上げ、魔力は底をつき、頭の中ではいまだに「気合いだ!」の残響が反響している。
それでも今日は――
ご褒美の日だ。
ヴィルおすすめの、美味しい魚料理屋さん。
朝から全身がバキバキで、正直、階段を降りるだけで一瞬「ここで人生終わる?」って思ったけど、テンションだけは異様に高かった。
「行くか?」
そう声をかけてくるヴィルは、いつものように軽い口調だ。
「うん! 楽しみー!」
即答したら、ヴィルは一瞬だけ真面目な顔になった。
「なぁ。危ないから。俺の傍、離れるなよ?」
一瞬、あの日の記憶がよぎる。
路地裏。
嫌な笑い。
逃げ場のない距離。
「あー……本当に。その節は……」
言葉を濁した私に、ヴィルは少しだけ視線を強めた。
「離れないって、言えよ」
「……あはは! すごい真剣な顔!」
誤魔化すように笑った、その瞬間。
ぐ~~~。
盛大な音が、街路に響いた。
「あっ」
「……」
「どこかで犬が鳴いた!」
「お前の腹な」
即ツッコミだった。
「もう! はやく行こ!」
私がぐいっと腕を引くと、ヴィルは一拍だけ置いてから、
「……こっちの道だ」
そう言って、自然に私の前を歩き始めた。
目当てのレストランは、想像以上に雰囲気がよかった。
木の看板、柔らかい灯り、開け放たれた窓から漂う魚と香草の匂い。
中に入ると、若者やカップルが多い。
学園の近くだ。
そりゃそうだ。
席に案内される途中、ふと視界の端に――
「あっ」
思わず声が漏れた。
ヴィルがすぐに気配を察して、さりげなく私の視線の先を見る。
そこにいたのは、桃色の髪。
「……またか。なんだよ」
「なんということ……!」
「だから、なんだって」
「少し……距離が縮まっているではないか!」
ヒロイン――カレン・ベルガモット。
隣には、例の銀髪の青年。
昨日より、確実に近い。
肩と肩の距離が、明らかに違う。
(ポップコーン……)
今すぐ欲しい。
コーラとポップコーンを片手に、スチルを鑑賞したい。
「ほら、メニュー決めろ」
現実に引き戻された。
「なんてこった……好きな料理ばかりだ……」
「はいはい。好きなの頼め。分け合えばいい」
「少しずつ色々食べられると……天才か!」
ヴィルは呆れたように笑いながらも、私の皿に自然に魚を取り分けてくれた。
頑張った自分への、美味しいご飯。
そして、生で見るヒロインの恋模様。
筋肉は悲鳴を上げているのに、心は満腹だ。
――最高のお出掛けだった。




