愛しい君と護身術
――たまらない。
本当に、たまらない。
城の訓練所に差し込む冬の光は冷たいのに、床に転がる彼女の熱だけが、はっきりと伝わってくる。
荒い息。額に浮かぶ汗。
それでも視線は死んでいない。
いや――むしろ、燃えている。
「はぁ……っ、まだ……」
そう言って立ち上がる彼女を見て、思わず喉の奥が鳴った。
あの訓練所の光景が脳裏をよぎる。
汗だくで、必死で、贅肉と戦っていたと言い張ったあの姿。
……ああ。
今なら分かる。
嘘じゃなかった。
何も誤魔化していなかった。
彼女は本気で、自分の身体と向き合っていた。
腕を取る。
返される。
体勢を崩させたはずなのに、膝が入る。
肘と膝を繋いだフレームが、驚くほど強い。
「……いい判断だ」
思わず声が漏れる。
普通なら、ここで怯む。
だが彼女は、食らいついてくる。
逃げるためじゃない。
生き残るための動きだ。
床に転がされるのは、彼女だ。
それでも、ただ転がらない。
間合いを読む。
重心をずらす。
次の一手を、ちゃんと考えている。
――美しい。
身体の線の話じゃない。
動きだ。意志だ。
彼女が一瞬の隙を突いた時、俺は反応が遅れた。
「……!」
ダン、と衝撃。
視界が反転する。
次の瞬間、背中に冷たい床の感触。
……下にいるのは、俺だった。
「はぁ……はぁ……」
彼女が俺を見下ろしている。
息を切らしながら、勝ち誇ったように。
「どう? 気に入った?」
――ああ。
喉が渇く。
正直に言えば、理性はだいぶ危うい。
こんな顔で、こんな距離で、こんな目を向けられて。
腕一本で引き寄せたら、簡単だ。
押さえつけることも、奪うことも。
……できる。
でも。
俺は、笑った。
「……参った」
それは冗談でも、社交辞令でもない。
「君は、ちゃんと強くなってる」
そう告げると、彼女は一瞬きょとんとして、
それから――ぱっと、顔を輝かせた。
その笑顔に、胸の奥が熱くなる。
ああ。
俺は本当に、この人に惚れている。
守りたい。
並びたい。
置いていかれたくない。
だから、上書きなんて必要なかった。
彼女は、誰の痕跡にも縛られていない。
自分で選び、自分で立ち、自分で前に進く女だ。
俺は、床から起き上がり、手を差し出す。
「もう一回、いくか」
彼女は迷わず、その手を取った。
――いいだろう。
何度でも付き合う。
何度でも、確かめる。
君が強くなるたび、
俺は、もっと惚れるだけだから。
エルンスト視点




