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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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132/197

銀色に染まる宿

翌朝。

朝食へ向かうため、宿の廊下を歩いていると、ふと視界が開けた。


窓の外――

一面の銀世界。


雪に覆われた木々も、屋根も、道も。

朝の光を受けて、きらきらと静かに輝いている。


「……きれい」


思わず零れた言葉は、吐く息と一緒に白く溶けた。


隣を歩いていたヴィルが、外ではなく私の方を見て、短く頷く。


「そうだな」


それから、少し間を置いて。


「砂糖シロップをかけたらどうだ」


「ガキの発想!」


思わず睨むと、ヴィルは肩をすくめた。


「でも、気持ちはわかる」

「……そして俺もやりたい」


「やるなよ!?」


二人同時に吹き出す。


あはは、と声を上げて笑って。

こんなに他愛のない会話が、胸の奥まで染みる。


今日も、楽しい。


この一年が、あまりにも過酷だったせいだろうか。

反動みたいに、今がたまらなく眩しい。


「なんということでしょう!」


突然、叫んだ私に、ヴィルがびくっと肩を跳ねさせる。


「……なんだ急に」


「世界が平和だ!」


「訓練ないもんな」


即座に返ってくる現実的な返答に、思わず噴き出す。


「楽しいぞ!温泉は最高だ!」


そう言うと、ヴィルは少しだけ目を細めた。


「俺も、お前が楽しそうで嬉しいよ」


その言葉は、さらっとしているのに、妙に温かい。


朝食会場は、広々としたビュッフェ式だった。

木の香りと、湯気と、食欲を刺激する匂いが混ざり合う。


そして――


ヴィルの皿の上。


「……多くない?」


山。

もはや山。


肉、魚、卵、パン、何か分からない煮込み。

盛りに盛られた、圧倒的な量。


「足りないくらいだ」


「宿、出禁になったらどうしよう……」


そう呟くと、ヴィルは顎で周囲を示した。


「ここ、どこだと思ってる」


見渡す。


屈強な男たち。

戦士。

魔術師。

皆、それぞれの皿に、同じような“戦場”を展開している。


……そうだった。


ここは、ネルケ辺境伯領。


アイナは、静かに思った。


(厨房……激戦地だな……)


けれど、その激戦が支える朝食は、あまりにも美味しくて。

窓の外の銀世界と、温かな料理と、隣にいる幼馴染。


今はただ――

この時間が、穏やかに続いてほしいと願ってしまう。


そんな冬の朝だった。


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