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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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冬季休暇は実家で

学園の門を出た瞬間、

張りつめていた糸がふっと緩んだ気がした。


冷たい冬の空気が頬を撫でるのに、不思議と寒くない。

それどころか、胸の奥がじんわりと温かかった。


あっという間の一年だった。

学園に来たばかりの頃、

ここまで「現実」を生きることになるなんて、

正直想像もしていなかった。


座学、訓練、毒、魔物、二日酔い、そして聖誕祭。


思い返すと、笑っていいのか分からない出来事ばかりなのに、不思議と全部が懐かしい。


馬車の揺れに身を預けながら、思わず小さく笑ってしまう。


「……濃すぎる一年だったなぁ」


隣に座るヴィルが、同じように遠くを見る目で頷いた。


「あっという間だったな」

「ね。今はもう、家でのんびりしたい」

「それは分かる」


一拍置いてから、少し照れたように続ける。


「帰ったらさ、久しぶりに一緒に温泉行かないか?」

「いいね!やっぱり冬は温泉だよね~」


そう答えながら、心の奥がきゅっとなる。

この距離、この会話。

昔から変わらないはずなのに、

どこかで変わってしまった感覚も、ちゃんと分かっていた。


でも、今は考えない。

今日は、帰る日だ。


馬車が領地へ入ると、見慣れた景色が流れ始める。

雪をかぶった森、整えられた街道、遠くに見える城の屋根。

胸の奥に、ほっとする感覚が広がった。


ネルケ辺境伯領。


「……あ」


思わず声が漏れる。

門が見えた瞬間、自然と背筋が伸びた。


馬車が止まり、扉が開く。


「我が家よ!ただいまー!!」


声を張り上げると、すぐに反応が返ってきた。

使用人たちが駆け寄り、メイドたちが笑顔で迎えてくれる。

そして、懐かしい両親の姿。


「おかえり、アイナ」

「無事で何よりだわ」


その言葉だけで、胸がいっぱいになる。

学園で張りつめていたものが、一気にほどけた。


暖炉の火。

湯気の立つ紅茶。

聞き慣れた足音と、変わらない空気。


「ああ……帰ってきた……」


心から、そう思った。


今年も、生き延びた。

笑って帰ってこられた。

それだけで、十分すぎる。


「今年も一年、お疲れさまでした……」


誰にともなく呟きながら、私は深く息を吸い込んだ。

冬の匂いと、家の匂いが混ざった、懐かしい空気。


冬季休暇は、ここから始まる。



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