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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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冬季休暇のお知らせ

教室に入った瞬間、空気が重かった。

物理的にではない。頭に、胃に、そして魂に。


「いやー!みんな見事に死んでますね!楽しい聖誕祭だったようだ!はっはっは」


……やめてほしい。

その元気な声、今の私には凶器です先生。


額を押さえながら顔を上げると、教室中が同じ状態だった。

机に突っ伏す者。

額に手を当てて虚空を見つめる者。

水筒を抱えて祈るようにちびちび飲んでいる者。


ああ……分かる。

この光景、間違いなく「聖誕祭の翌日」だ。


「さてさて、そんな君たちに朗報だ!」


嫌な予感がする。

良い知らせの前に、必ず落とし穴がある人だ。


「来週から、冬季休暇だよー!」


一瞬、時が止まった。

次の瞬間、教室のあちこちで小さな拍手やガッツポーズが起きる。


救い。

これは確実に救い。


「……ただし!」


ほら来た。


「今日中に休暇申請を出し忘れると、自動的に冬季訓練に参加になります!」


凍った。


「では、授業はじめまーす!」


今日中!?

今!?この頭で!?

休暇申請、休暇申請、休暇申請……忘れたら死ぬ!


そんな呪文を脳内で唱えながら、私は必死に板書を追った。

文字が揺れる。

黒板が波打つ。

世界が二重に見える。


そして。


治癒魔術科の私たちは、そのまま合同訓練へ直行した。


……なぜ。


「いくぞー!」


バーン!という音がして、反射的に身体が動く。

ひょい、と横に避ける。


(……え?)


ドガーン!

次の衝撃も、ひょい。


頭は重い。

胃も気持ち悪い。

正直、今すぐ横になりたい。


なのに。


身体だけが、勝手に“正解”を選んでいる。


「はいよっ、もういっちょー!」


自分でも信じられない声が出た。

足が自然に踏み込み、距離を測り、避ける。


「……あれ?」

「今の、普通に避けたよな?」

「前だったら、直撃してたぞ」


周りの声が耳に入る。


「……俺らさ」

「マジで成長してない?」

「ね。前だったら、今の絶対当たってた」


その言葉に、思わず笑ってしまった。

二日酔いで、頭痛で、胃が文句を言っているのに。


「……わかる」


過酷だった。

理不尽だった。

毒も、寒さも、恐怖も。


何度も「死ぬ」と思った。

何度も「もう無理」と思った。


でも。


その全部が、ちゃんと身体に残っている。


二日酔いでも動ける。

恐怖が先に来ない。

判断が遅れない。


「あれ、ちょっと……」

「強くなってない?」

「やだ……嬉しいんだけど……」


誰かが照れたように言って、みんなで小さく笑った。


私は胸の奥で、そっと息を吐く。


(……生き残ってきたんだな)


聖誕祭で笑って、酔って、二日酔いになって。

それでも、こうして立って、動けている。


過酷な日々は、確実に私たちを削った。

でも同時に、確かに、鍛えてもいた。


「よーし、その調子!」


教官の声が響く。


頭はまだ痛い。

胃も相変わらず不機嫌。


でも。


この身体なら。

この仲間たちとなら。


「……冬季休暇、絶対に取ろう」


誰かが呟いて、全員が無言で頷いた。


まずは今日を乗り切る。

申請を忘れずに。


二日酔いでも、

生き延びた私たちは、ちょっとだけ誇らしかった。


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