手を引かれて
笑っている。
確かに笑っているはずなのに、胸の奥が少しだけ苦しかった。
治癒魔術科B班と騎士科B班。
賑やかな声、笑い声、テーブルを囲む人の輪。
初めて皆と過ごす聖誕祭は、思っていたよりずっと楽しくて、あたたかい。
――なのに。
(……息、苦しくない?)
気づいた時には、視界がほんのり滲んでいた。
世界がふわふわと揺れて、音が一拍遅れて届く。
(あれ……?)
いつの間にか、甘い果実酒を何杯も飲んでいたらしい。
喉を通る時の優しい甘さに油断して、気づけば杯が空いていた。
「……」
言葉にしようとした瞬間、足元が少し頼りなくなる。
その時だった。
「飲み過ぎだな」
低く落ち着いた声。
気づけば、エルンストがすぐそばに立っていた。
「少し風に当たろう」
問いかけではなく、確認するような声音。
自然に差し出された手に、私は反射的に指を預けていた。
すっと、引かれる。
ざわめきの中心から、静かな方へ。
「……あ」
振り返ろうとした視界の端で、ヴィルの姿が見えた。
こちらに気づいて一歩踏み出しかけた、その瞬間。
騎士科B班が、何気ない調子で声をかける。
肩を叩き、話題を振り、足を止める。
(……流石だな)
ぼんやりした頭で、そんなことを思った。
外に出ると、冷たい夜気が頬を撫でた。
肩に、ふわりと重みが乗る。
エルンストのコートだった。
「寒いだろ」
そう言って、迷いなく掛けられる。
その仕草が、あまりにも自然で。
向かった先は――
見覚えのある場所。
あのベンチ。
並んで腰を下ろした途端、身体の力が抜けた。
無意識に、私はエルンストの肩に頭を預けていた。
「……」
拒まれない。
代わりに、頭にやさしい重みが落ちてくる。
指先が髪を撫で、耳にかけ、頬に触れる。
そして、そっと唇に押し当てられる指。
重なってはいない。
それなのに、心臓が煩い。
冷たい空気が肺に入ってくるのが、心地いい。
「……気持ちいい……」
掠れた声が、自分のものだと分かるまで一瞬かかった。
「やっと」
エルンストの声が、低く落ちる。
「やっと……このベンチへ来てくれた」
その言葉に、胸の奥がじん、と熱を持つ。
目を閉じる。
隣にある温もりだけを、確かめる。
さっきまで苦しかった呼吸が、嘘みたいに楽になる。
彼の香りが、胸いっぱいに広がっていく。
「……しあわせ」
ぽつりと零れた言葉。
エルンストの喉が、小さく鳴った。
澄んだ夜空に、星が瞬いている。
聖誕祭の喧騒は遠く、ここには静かな温度だけが残っていた。
この時間が、壊れなければいい。
そんな予感と、不安を抱えたまま。
私は、ただ目を閉じていた。




