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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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聖誕祭当日

朝から、胸の奥がうるさかった。

音がするわけじゃないのに、ずっとざわざわしている。


聖誕祭当日。

学園は祝日で、授業も訓練もない。

本来なら、心から楽しみにしていい一日のはずだった。


部屋の窓を開けると、冷たい冬の空気が頬を撫でる。

白く曇る息。遠くから聞こえる街の賑わい。

赤や緑の飾り、鐘の音、浮き足立った声。


(ああ、今日はお祭りなんだ)


鏡の前で身支度を整えながら、私は何度も深呼吸した。

笑顔。

今日一日は、ちゃんと笑顔でいよう。


扉を開けると、すでに廊下はいつもより騒がしい。

治癒魔術科B班のみんなが、楽しそうに集まっている。


おはよう。

そう声に出した瞬間、胸の奥がきゅっと縮んだ。


治癒魔術科B班と騎士科B班。

エルンストと、私と、ヴィル。


この並びだけで、もうカオスの完成図が見える。

なのに、逃げ道はない。

今日は聖誕祭当日。

祝日で、学園は休みで、みんなが楽しみにしていた日。


――楽しいはず、なんだよね。


(……大丈夫。今までだって、生き残ってきた)


魔の森。

毒。

野外訓練。

死線。


それに比べたら、聖誕祭なんて平和そのもの。

そう、自分に言い聞かせる。


会場は、誰かが飾り付けた寮にある簡易ホール。

魔法灯が淡く光り、紙の飾りが揺れている。

テーブルの上には、チキン、パン、スープ、焼き菓子。

いつもの学園食堂より、ずっと“お祭り”らしい。


「かんぱーーい!」


一斉に声が上がる。

木製のカップが触れ合って、乾いた音が弾けた。


「チキン取り分けてー!」

「皮は俺な!」

「いや全部皮だろそれ!」


ガヤガヤ、わちゃわちゃ。

笑い声が重なって、空気が一気に温まる。


……楽しい。

本当に、楽しい。


でも。


(……胃、痛い)


私だけが、内側から削られている感覚だった。


左にはヴィル。

当たり前のように私の皿に料理を乗せてくる。

「食え。倒れるぞ」

声は優しい。いつもの幼馴染。


右にはエルンスト。

少し離れて座っているのに、視線が何度も合う。

何も言わない。

でも、確かに“見ている”。


B班のみんなは無邪気だ。

「次は何やる?」

「プレゼント交換しようぜ!」

「それ絶対地雷混ざるやつ!」


騎士科B班も混ざって、場は完全にお祭り騒ぎ。

誰も悪くない。

誰も、間違っていない。


なのに。


(……どうして、こんなに苦しいの)


笑顔を作る。

相槌を打つ。

カップを持ち上げる。


ちゃんと、やれてる。

外から見たら、私は楽しそうな参加者そのものだ。


でも、胸の奥では、三つの視線がせめぎ合っている。


幼馴染として、当たり前に隣にいるヴィル。

騎士として、静かに距離を測るエルンスト。

そして、“班の仲間”として私を引っ張り出したみんな。


誰にも嘘はついていない。

約束も、隠し事も、していない。


それなのに――

全員が、きっと思っている。


「自分が選ばれる」と。


「アイナは、俺の側にいる」と。


その重なりが、私の中で悲鳴を上げていた。


「アイナ、飲み物足りてる?」

「寒くない?」

「ほら、こっち来いよ」


同時に飛んでくる声。

全部、優しい。

全部、正しい。


だから、拒めない。

だから、逃げられない。


(……笑って)


自分に命令する。

今は聖誕祭。

みんなが楽しみにしていた日。


壊しちゃいけない。

空気を。

関係を。

この時間を。


「大丈夫だよ!」


少しだけ声を張って、笑う。

その瞬間、胃がきり、と強く締め付けられた。


(……限界、近いな)


でも、まだ耐えられる。

まだ、笑える。


聖誕祭は、始まったばかりだ。


私はカップを持ち上げて、もう一度言う。


「……乾杯!」


その声が、ほんの少しだけ震えていたことに、

誰も気づかないまま――



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