疎外感。
おかしい。
――おかしい。
聖誕祭前夜。
学園の空気は浮き立っているはずなのに、俺の周囲だけが、やけに静かだった。
回廊を歩く生徒たちの笑い声。
装飾の準備をする者たち。
楽しげな計画の話題。
そのすべてが、膜一枚隔てた向こう側にある。
(……俺は、外か)
ふと、そんな言葉が浮かんでしまった瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。
おかしい。
俺は、ずっとアイナの隣にいた。
彼女の帰る場所で、彼女の安全圏で、彼女の日常だったはずだ。
なのに。
最近、俺は「聞かされる側」になっている。
「聖誕祭、どうするんだろうな」
「治癒魔術科B班、なんか集まるらしいぞ」
……らしい、だと?
アイナ本人から、俺は何も聞いていない。
いや、違う。
正確には――
(……言われなかった)
昼食。
帰り道。
寮の前。
いくらでも機会はあった。
それでも、彼女は言わなかった。
「一緒にやろう」
「予定がある」
「みんなで集まる」
どれも。
(……俺を、避けた?)
一瞬、そう考えた自分に、ぞっとする。
否定したい。
だが、否定する材料が、どこにもない。
アイナは、変わった。
露骨ではない。
態度も、言葉も、距離感も、表面上は何も変わっていない。
それが――余計に、厄介だ。
変わらないまま、
「俺を含めない選択」をしている。
それは、拒絶よりも、残酷だった。
(……エルンスト)
あの男の顔が、脳裏に浮かぶ。
騎士としての立場。
静かな物腰。
触れないのに、逃がさない距離。
そして――
アイナの前でだけ、わずかに緩む空気。
あれは、偶然じゃない。
(……奪ってる)
はっきり、そう思った。
俺の知らないところで。
俺の目の届かない時間で。
俺のいない場所で。
少しずつ。
確実に。
(……許すわけ、ないだろ)
喉の奥で、声にならない感情が渦を巻く。
俺は、何も奪っていない。
ただ、隣にいただけだ。
ただ、守ってきただけだ。
それなのに。
「選ばれなかった」みたいな顔を、
俺がしなきゃいけない理由は、どこにある?
回廊の窓から、外を見る。
夕暮れが近い。
空が、鈍い色に染まっている。
アイナは、今頃どこにいる。
誰と、笑っている。
誰の隣に、立っている。
(……考えるな)
そう思うほど、想像は鮮明になる。
B班の仲間たち。
賑やかな声。
その中に、エルンスト。
そして――
楽しそうに笑う、アイナ。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。
(……俺の知らない顔だ)
知らない、という事実が、
これほどまでに恐ろしいとは思わなかった。
疎外感。
その言葉が、ゆっくりと心に沈んでいく。
孤独とは違う。
拒絶とも違う。
「必要とされなくなったかもしれない」という、
曖昧で、だからこそ逃げ場のない感覚。
(……焦るな)
自分に言い聞かせる。
焦ったら、壊す。
踏み込めば、逃げられる。
だから、今は。
表では、何も変えない。
優しい幼馴染でいる。
いつも通り、迎えに行く。
だが――
(……視界からは、外さない)
アイナの行動範囲。
交友関係。
時間の使い方。
すべて、把握する。
誰と、どこで、何をしているのか。
誰が、彼女の時間を奪っているのか。
聖誕祭。
祝う日?
違う。
(……分岐点だ)
ここで、何かが決まる。
俺の位置か。
エルンストの位置か。
それとも――
夜風が、冷たい。
それでも、頭は妙に冴えていた。
「……大丈夫だ」
誰に向けた言葉でもなく、そう呟く。
アイナは、俺の幼馴染だ。
それは、消えない。
消させない。
彼女がどれだけ遠くへ行こうと、
必ず、戻る場所になる。
戻らないなら――
戻る理由を、作るだけだ。
疎外感は、痛みだった。
だが同時に。
これは、警告だ。
「奪われかけている」という、
明確な、合図。
ヴィルは、静かに目を閉じた。
ヴィル視点




