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モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


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121/209

疎外感。

おかしい。

――おかしい。


聖誕祭前夜。

学園の空気は浮き立っているはずなのに、俺の周囲だけが、やけに静かだった。


回廊を歩く生徒たちの笑い声。

装飾の準備をする者たち。

楽しげな計画の話題。


そのすべてが、膜一枚隔てた向こう側にある。


(……俺は、外か)


ふと、そんな言葉が浮かんでしまった瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。


おかしい。

俺は、ずっとアイナの隣にいた。

彼女の帰る場所で、彼女の安全圏で、彼女の日常だったはずだ。


なのに。


最近、俺は「聞かされる側」になっている。


「聖誕祭、どうするんだろうな」

「治癒魔術科B班、なんか集まるらしいぞ」


……らしい、だと?


アイナ本人から、俺は何も聞いていない。


いや、違う。

正確には――


(……言われなかった)


昼食。

帰り道。

寮の前。


いくらでも機会はあった。

それでも、彼女は言わなかった。


「一緒にやろう」

「予定がある」

「みんなで集まる」


どれも。


(……俺を、避けた?)


一瞬、そう考えた自分に、ぞっとする。

否定したい。

だが、否定する材料が、どこにもない。


アイナは、変わった。


露骨ではない。

態度も、言葉も、距離感も、表面上は何も変わっていない。


それが――余計に、厄介だ。


変わらないまま、

「俺を含めない選択」をしている。


それは、拒絶よりも、残酷だった。


(……エルンスト)


あの男の顔が、脳裏に浮かぶ。


騎士としての立場。

静かな物腰。

触れないのに、逃がさない距離。


そして――

アイナの前でだけ、わずかに緩む空気。


あれは、偶然じゃない。


(……奪ってる)


はっきり、そう思った。


俺の知らないところで。

俺の目の届かない時間で。

俺のいない場所で。


少しずつ。

確実に。


(……許すわけ、ないだろ)


喉の奥で、声にならない感情が渦を巻く。


俺は、何も奪っていない。

ただ、隣にいただけだ。

ただ、守ってきただけだ。


それなのに。


「選ばれなかった」みたいな顔を、

俺がしなきゃいけない理由は、どこにある?


回廊の窓から、外を見る。

夕暮れが近い。

空が、鈍い色に染まっている。


アイナは、今頃どこにいる。

誰と、笑っている。

誰の隣に、立っている。


(……考えるな)


そう思うほど、想像は鮮明になる。


B班の仲間たち。

賑やかな声。

その中に、エルンスト。


そして――

楽しそうに笑う、アイナ。


胸の奥が、ぎゅっと締めつけられた。


(……俺の知らない顔だ)


知らない、という事実が、

これほどまでに恐ろしいとは思わなかった。


疎外感。


その言葉が、ゆっくりと心に沈んでいく。


孤独とは違う。

拒絶とも違う。


「必要とされなくなったかもしれない」という、

曖昧で、だからこそ逃げ場のない感覚。


(……焦るな)


自分に言い聞かせる。

焦ったら、壊す。

踏み込めば、逃げられる。


だから、今は。


表では、何も変えない。

優しい幼馴染でいる。

いつも通り、迎えに行く。


だが――


(……視界からは、外さない)


アイナの行動範囲。

交友関係。

時間の使い方。


すべて、把握する。


誰と、どこで、何をしているのか。

誰が、彼女の時間を奪っているのか。


聖誕祭。


祝う日?

違う。


(……分岐点だ)


ここで、何かが決まる。

俺の位置か。

エルンストの位置か。

それとも――


夜風が、冷たい。

それでも、頭は妙に冴えていた。


「……大丈夫だ」


誰に向けた言葉でもなく、そう呟く。


アイナは、俺の幼馴染だ。

それは、消えない。

消させない。


彼女がどれだけ遠くへ行こうと、

必ず、戻る場所になる。


戻らないなら――

戻る理由を、作るだけだ。


疎外感は、痛みだった。

だが同時に。


これは、警告だ。


「奪われかけている」という、

明確な、合図。


ヴィルは、静かに目を閉じた。



ヴィル視点

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