表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブでいたはずの私が、ただひとりに溺愛されるまで  作者: ChaCha


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

119/209

聖誕祭のお知らせ

気づけば、吐く息が白くなる季節になっていた。

学園の石畳も、朝は冷たく、歩くたびに靴底からじんと冷えが伝わってくる。


冬だ。


相変わらず、日々は容赦がない。

座学、合同訓練、治癒実習。

気力と体力と魔力を、順番に、あるいは同時に削られていく生活。


治癒魔術科の教室には、どこか「生き延びた者たち」の空気が漂っていた。

誰もが微妙に姿勢が悪く、どこかを庇うように座り、でも――ちゃんと出席している。


それが、私たちの誇りだ。


そんな空気の中で。


「はい!注目~!聖誕祭、迫ってますね?」


教官の一声で、教室の空気が一気にざわついた。


ざわざわざわざわ。


(来た……)


嫌な予感しかしない。

この学園で「祭り」や「祝日」という単語が出た時、無条件で警戒する癖が、全員に染みついている。


治癒魔術科の生徒たちは、目を細め、肩を強張らせ、全神経を教官に向けた。


(何を言い出す気だ……)


教官が、少し間を置く。


「学園は……」


ごくり。


誰かが喉を鳴らした音が、やけに大きく聞こえた。


「祝日です!」


……へ?


一瞬、理解が追いつかなかった。

祝日。

今、祝日って言った?


教室が、しんと静まり返る。


次の瞬間。


震えながら、恐る恐る手を挙げる生徒がいた。


「……祝日という名の、特訓メニューですか?」


声が裏返っている。

分かる。分かりすぎる。


教官は、にこっと笑った。


「特訓好きな君にプレゼント!」


ぎゃあ!


誰かが悲鳴をあげた。

椅子を掴む音、机を叩く音、絶望が一気に広がる。


(やっぱりだ!)

(信じた私たちがバカだった!)


しかし。


「……ということはなく」


え?


「お休みです」


一瞬の静寂。

次の瞬間。


わああああああああ!!


教室が、爆発した。


歓声、拍手、ガッツポーズ。

誰かが泣いている。

誰かが机に突っ伏して「生きててよかった……」と呟いている。


私も思わず、両手を握りしめた。


(本当に……休み……!?)


奇跡か。

これは奇跡なのか。


しかし、教官はそこで終わらなかった。


「あっ!」


その一言で、教室がピタリと静まる。


嫌な予感が、背骨を駆け上がる。


「食堂も学園も閉まるからね!?ご飯は自分たちでなんとかするのですよー!」


……。


……あっ。


一拍遅れて、理解が追いついた。


(休みだけど……サバイバル……)


でも。


それでも。


本当に、本当に。


特訓じゃない。

毒もない。

重りもない。

魔物もいない。


――休みだ。


治癒魔術科の生徒たちは、再び盛大に沸いた。


「街行こう!」

「聖誕祭だよ!」

「温かいもの食べたい!」

「甘いの!!」


教官は、その様子を満足そうに眺めてから、最後に一言。


「はい!お知らせ終わり!今日も楽しく気合い育てましょうね!」


ズーン……。


一瞬で現実に引き戻された。


(あ、今日の授業はあるんだ……)


それでも。


私は思った。


(休日という名の、聖誕祭プレゼントだ……!)


寒い冬の始まり。

でも、胸の奥は、少しだけあたたかかった。


――聖誕祭。

何が起きるかは、まだ分からないけれど。


少なくとも。


「生きて迎えられる祭り」だということだけは、確かだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ